日中文化交流協定締結40周年記念 三国志

2019年07月09日~09月16日

東京国立博物館


2019/7/21

 中国の歴史なのに日本人の関心は高い。長い平安の世が終わると戦乱が始まる。誰が天下を取るかは、庶民の一大関心事だった。現代の総選挙とも大差ないはずだ。違うのは情報量だが、風評という限りはさまざまに飛び交い、伝説を生み出していく。三国志は史実に基づいた歴史小説として、魅惑的なものだ。日本では戦国武将の群雄割拠を思えばわかりやすい。

 人類はどうも殺し合いが好きらしい。現代でもゲームにもなるし、マンガやアニメを通じても親しい。私の場合は、吉川英治の小説だったが、戦国武将に劣らずなじみ深いものになっている。ことに劉邦のサクセスストーリーに興奮していた記憶がある。一人ずつ仲間が増えていく黒澤明の「七人の侍」を見ているような醍醐味があった。ヒューマニズムの名を借りた人間の欲望のドラマである。赤壁の戦いに取材をした「レッドクリフ」という映画もヒットした。

 中国各地の博物館から名品が借り出されているが、その間を縫って横山光輝のマンガの原画と、川本喜八郎のアニメで用いられた人形が色を添えている。ことに川本の人形制作は映像を上回ってもいて、登場人物の人格を適切にとらえ、重厚な風格を備えている。特別展にもかかわらず、全点撮影OKというのも、この展覧会の売りのひとつになっている。著作権の整備された資本主義経済に戦いを挑むヴァイキングのラジカルを感じさせる。

 展覧会は三国志をダシに使って、時代を浮彫にする。漢の時代が終わり、長い平和を訝った野生が、人間の血によみがえってくる。戦いのない世を思い描きながら、人類は壮絶な争いを繰り返してきた。それを進化と呼ぶのかどうかを、歴史的発掘を通じて検証しようとする。とりわけ近年の発見で話題になった曹操の墓が、会場内に再現されている。エジプト展でピラミッド内の閉鎖空間を体感させようとする工夫に対応するものだ。まとまりのないほど多様な文物が集まっている。統一された唐の美術品を集めた味わいとは異なっている。平和は洗練と品位を芸術にもたらすが、戦乱はそれを解体し、美の組み換えを求めて、白紙に戻す。野生の息づいた生まものの匂いが残る展覧会だった。


by Masaaki KAMBARA