李侖京 Lee yunkyung の絞り染め

倉敷芸術科学大学大学院芸術研究科修士課程 修了制作展

2015年1月6日(火)~25日(日)

加計美術館(岡山県倉敷市)


2015/01/25

 「絞り染め」という伝統的な技法を現代の造形に応用しようという試みである。インスタレーション作品がことにいい。毒々しいまでの赤が、鼓動のように響きながら、増殖し続けている。ここでは「絞る」という行為が重要ではあるのだが、それは「ほどく」という動作と抱き合わせになって、はじめて作品として完結する。絞り染めで私たちが見ているのは、絞られたものではなくて、ほどかれたものであり、それは束縛ではなくて開放を意味する。そこに開花にも似た華やかさが生まれるとすれば、絞り染めの美の秘密はそこにあると言っていいだろう。自由に解き放たれた花のイメージは、染織が高みにのぼりつめた桃山時代の美の象徴であって、絞られた布はじつはつぼみを意味し、糸を解くことによって一気に花は咲き誇るのである。この束縛から解放へという美学が、韓国を母国とする染織作家の手によって、インターナショナルなものになろうとしている。それは自由への賛歌といい直してもいい。

 絞るという行為を考えるとき、「おしぼり」という日本文化のかたちを面白いなと思うことがある。おしぼりとは、お手拭きのことだが、今では絞られたかたちで出てこない場合も多い。ぎゅっと捻られたハンドタオルが、小皿に乗せられて喫茶や食事の前に出てくる。絞られたものを開いてそっと頬にあてる。ほっとする一瞬である。この微妙なひとときの開放感を、受容ではなくてアクティブな表現へと解放するには、国際的な視野が必要で、李さんが目を向けたのも、そうした日本文化の可能性を直感的に感じ取ったからではなかったかと思う。伝統技法はなかなかその用途としての日常性に縛られて、純粋な造形要素にはならない場合が多い。しかし技法には常にそれが成立するための深い意味が備わっている。ヘアスタイルを支えるパーマネント技法に思いをはせると、髪結いはそれを解いたときの流れるようなウェーブを意識下に置きながら、見届けられるものにちがいない。


by Masaaki KAMBARA