ヒンドゥーの神々の物語

2022年07月16日~09月11日

岡山市立オリエント美術館


2022/8/27

 異なった世界観や価値観から生まれた造形に接することは、未知との遭遇というだけではなく、造形行為の普遍性という点で興味深いことだ。美術史という価値観でみると、ついつい制作年を基準にしてしまうが、ヒンドゥー世界はそれを超越しているようにみえる。制作年をみると紀元前5世紀があるかと思うと、20世紀後半という表記もされている。

 美術史の記述では20世紀ならせめて1960年代や80年代というのが普通だろう。もちろんはるか未来の世界なら、こうした表記も可能となる。そして今でもこれが可能だという点にこそヒンドゥー世界の本質があるのではないか。それはヒンドゥーだけでなく、イスラム世界やかつてのビザンチン帝国に特徴的なイコンの造形にもいえることで、骨董品のもつ価値観が成立せず、美術品や世界遺産という概念の希薄な時代と地域を結んでいる。

 インドの豊穣なイメージ世界を支えているのは、ヒンドゥー教の神々のエネルギッシュな躍動感なのだだろうか。脈々と描き続けられてきたイメージの系譜がある。スタイルはほとんど変わりないが、個々の顔立ちには時代に見合った感受性が宿っている。現代に生きているということでもあるが、身近な現代をいつも希求していて、手の届くところに神々がいる。ブロマイドを見るようなポピュラリティを宿している。神格化された美術品という概念が、西洋の産物だとすれば、それはいつ頃からはじまっただろうか。世界遺産という分類を逸脱する価値観はある。


by Masaaki Kambara