野口哲哉 ~中世より愛をこめて~

From Medieval with Love

ポーラ ミュージアム アネックス

2018/8/22

 以前「戦国自衛隊」という角川映画があった。鎧兜の戦国武将と戦車に乗った自衛隊が激突するというタイムスリップしたシーンが、強く記憶に残っている。その時の違和感がここでも蘇ってくる。現代と過去の奇妙な出会いだが、SFという区切りで理解し納得してきた理性が崩壊する。鎧兜を身につけた現代人という、映画の世界では当たり前の約束事が、彫刻という分野に持ち込まれることで、化学反応を起こし、鑑賞者にこれまでにない体験をしいる。

 使い古された鎧兜と、疲れ切った現代人という組み合わせは、シュールな光景だが、同じ周波をもつ通信回路のように共鳴しあっている。背伸びをしてハートを描く戦国武将にユーモアとパロディを感じ取るが、死にゆく者が見せる愛の希求と取れば、ペーソスに満ちた人の世の悲哀が漂い始める。戦闘服に身を固めたソルジャーなら、プラモデルの量産によって、馴染んできたものなのだが、鎧兜に置き換えられることで、この美術品とも工芸品とも言える美の伝統に、目が向かう。

 使い古されたということは、それを身につけていた兵士が、もはやこの世にはいないのだという連想を生む。つまりは遺品であって、血の匂いさえ染み込んでいるものだ。刀剣が攻撃の象徴だとすれば、鎧兜は防御を意味する。相手を威圧するために築かれた城とも等しい。落城して石垣だけが残された姿が、ここで描き出された鎧兜に対応する。五百年の時を超えて亡霊のように、乱世の夢が現代人に取り憑いている。

 肩を落として背が語る兵士たちの表情は暗い。思わず顔をのぞきこみたくなるほど、身につけた鎧兜が語るメッセージは、多様で豊かなものがある。ミニチュアサイズが多数を占めるが、それらは撮影され、映像やポスターで拡大されることで、威力を発揮する。

by Masaaki Kambara