モディリアーニ —愛と創作に捧げた35年—

2022年04月09日~07月18日

大阪中之島美術館


2022/6/29

 肖像画をおもしろいと思うことはあまりない。ただしモディリアーニの場合は例外と呼べるだろう。無名の人と呼ばれる何でもない普通の人にももちろん名前はある。それが「〇〇の女」などと題名がつくと、とたんに謎めいて見えてくる。見る側はそれがだれであろうと、あまり興味はなく、それでいてみんなモディリアーニの人物という点で惹かれている。

 威厳をもって堂々としているのが、肖像画のつとめだとすると、モディリアーニの描く肖像はいつも繊細な感性に打ち震えている。一瞬のしぐさをとらえたスナップショットのように、時が止まっている。指先をからめながら何かを言おうとしている。そこでは表情が指先に託されるのだが、首をこころもち傾けるだけで、表情にニュアンスがつけ加わる。唇が動き出そうとする瞬間をとらえたものがある。一瞬でありながら、永遠が語られる。

 写真家が写し出した決定的瞬間は、一瞬だが遅れてしまう。目で見てシャッターを押すまでのほんの瞬時の遅れが写真の特徴だとすると、モディリアーニの人物は次にくる決定的瞬間を先取りしているようだ。語り出す直前の表情と言ってもよいだろうか。写真術が全盛を極める時代を念頭において、絵画の礼讃が古き良き時代のパリを追憶するように、場末の歓楽街に共鳴しようとしている。それらの無名のモデルたちが、モディリアーニを応援するように肖像画となって、画家を取り巻いている。そこには古代ギリシャを記憶するような悠久に裏打ちされたエーゲ海文明もある。


by Masaaki Kambara