第1018回 2026年3月25日
山田洋次監督作品、山本直純音楽、渥美清、松坂慶子主演、芦屋雁之助、倍賞千恵子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、吉岡秀隆、太宰久雄共演、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞受賞 、104分。
さわやかな印象を残す、清涼剤のようなシリーズの第27作。冒頭では竜宮城の夢を見ている。乙姫様に出会い、亀に乗って戻ると家はなく、妹がいたので声をかける。妹ではなく半世紀のちの妹の孫夫婦だった。
夢からさめると、舞台は瀬戸内海の小島、そこで出会った娘(浜田ふみ)に恋をする話である。海を望む丘にある墓に向かう女がいた。主人公(車寅次郎)が声をかけ、自分にも墓に手を合わさせてくれと頼む。ご主人を亡くして未亡人になったと勘違いをして、悔やみを言うと笑った。
死んだのはお祖母さんであり、ここは生まれ故郷だったが、今は大阪に住んでいるのだと言う。親しくなったが女はしばらく残るというので、先に船に乗って帰った。別れ際に女は名前を告げた。男も名乗り、柴又にある団子屋が実家だと言った。
その後、大阪に来て店を張っている。石切での縁日だったが、東京と勝手がちがい売れ行きは良くない。通天閣の見える新世界のホテルにながらく滞在している。知りあいは経営者の息子(喜介)だったが、母親が厳しく溜まっている宿代を、請求に来るが気にもとめていない。
一週間しかいないが、もうひと月もいるような気がしているとはぐらかしている。請求書はまるめて窓から捨てると、転がって軒先にとどまるが、そこには何枚もの丸められた紙が同じように溜まっていた。
露店を張っていると、にぎやかな芸者仲間がいた。三人のうちひとりの若い女の顔を見て、瀬戸内海の小島で出会った女だったのに驚く。寅さんと呼びかけて、再会を喜びあうと、みんなを連れて飲み騒ぐことになった。
支払いとなって女がここは私がと言うと、寅さんが二つ折りの長財布を出して、これで払ってくれという。レジで財布を開くと空っぽだった。笑いながら女が払っていた。二人は身の上話をする仲にまでなっていった。
女には身寄りはないものと思っていたが、弟(英男)がいることを知る。母親が小さかった弟を連れて出ていき、自分は祖母のもとで育てられた。そのとき以来、弟とは会っていないと言う。たったひとりの肉親になぜ会わないのだと、寅さんは怒り出す。
勤め先(山下運輸)を聞いていたことから、さっそく会いに行こうと誘う。芸者をしている身であることから躊躇するが、寅さんは付き添ってやると言って引っ張って行った。働いている工場を見つけて、主任のような男だったが、尋ねると口籠もっている。
事務所に通されると従業員仲間がいた。じつはと言って語られたのは、急な病で死んだということだった。最近のことだったが、姉がいることは知らなかったので知らせることができなかった。遺骨は叔母だと言う人が来て持ち帰ったと言っている。
会社の親切な対応は、事務所で葬式もあげてやっていた。住んでいたアパートに案内されると、恋人だったという娘が現れる。近々結婚の予定だった。寅さんは娘にあなたが一番悲しかっただろうと慰めている。
姉は悔いたが、いたたまれず部屋を去りたかった。夜の席もあるのでと寅さんに伝える。こんな時なのに休めばという声も聞かなかった。付き添っていた寅さんは姉の主人に間違われていたが、親戚の者だと訂正している。姉は芸者に見えないかと、さかんに気にしていた。
恋人には姉がいることは話していた。会いたいと言っていたという弟のことばを、恋人から聞けたことが慰めになった。戻ると着物に着替えて座敷に出るが、弟の死の動揺から退席し、酒を飲んで夜遅くなって寅さんの部屋にやってきた。
美人の芸者の登場に、安ホテルの知人は驚いている。寅さんに抱きついて、泣きはらしてそのまま眠ってしまう。知人は頼まれた酒を運んできて、抱きあう姿をみて、そっと置いて引き上げていた。寅さんは何もできずに部屋を譲って、知人の部屋に潜り込むことになった。寅さん流の男の美学だった。
大阪にいてホテル代がかさむので、下宿を借りようと思っていると、叔父、叔母、妹(さくら)のいる団子屋に便りを送っている。大阪は嫌いだと言っていたことから、また恋がはじまったのだと推理して、みんなして笑っている。裏の印刷工場はそれどころではなかった。経営難で社長(タコ)は金策に追われていた。
しばらくは大阪にいると思っていたのに、柴又に戻ってくると、大阪弁が飛びかい団子屋の客にも、毎度おおきにという声が聞こえる。寅さんはぼんやりとして日々を送っている。女から一人で生きるという、別れとも取れる手紙をもらっていた。まわりはどんな美人だったのかと興味を抱いていた。
そんなとき団子屋のことを聞いていた女が訪ねてくる。寅さんは出かけていたが、みんなしてもてなした。裏の工場からも、どんな美人なのかと工員たちがのぞきにきている。
寅さんが帰ってきたときおどかそうと女は隠れ、後ろから手をまわして目を隠した。妹の息子(満男)だとあてて、手をのけると、目の前に甥はいた。一家の人数を数えて振り返ると、彼女が来ていたのに驚く。
大阪を引き払い芸者も辞めたことを伝える。東京に住むのか聞くと、長崎の対馬に行くのだと答える。なぜそんな遠いところにと言うと、結婚をするのだと答えた。相手は板前修行を終えて、出身の対馬に帰り寿司屋を開くのだと言う。寿司屋の女将になるという報告だった。
寅さんはお祝いを言いながらも心が塞いでいる。表情が急転直下、変貌する。家族はそれを見ながらも、平静を装って笑顔を見せている。電話がかかり相手の男からのようで、ホテルに先に戻っているというやり取りだった。二人で来ていたのである。
車で送り出したとき、寅さんは姿を消していた。妹は2階にあがって暗がりの中にいる兄に声をかける。兄は何も来ることはなかったのに、ハガキを一枚送ればすむことなのにとつぶやく。
いつものことながら妹は優しく、会っておきたかった女の気持ちを、兄に伝えている。吹っ切れた寅さんがその後、対馬を訪れて再会して、主人とも顔を合わせるところで映画は締めくくられる。喜びに満ちた女の、はつらつとした姿を、そこに見ることができた。柴又では踏み倒した大阪のホテル代の取り立てがやってきて、代わって払っていた。