ピカソ 青の時代を超えて

2023年02月04日~05月28日

ひろしま美術館


2023/4/26

 青の時代に代表されるピカソの若い頃の作品は、ナイーブな感性が満ちあふれていて人気が高いが、価値はそれだけではなく、現存している作例の少なさにもある。加えて絵の下からもうひとつ別の絵が出てくる可能性も含んでいる。現代の科学的調査が、上から塗り込んでしまった筆跡を見つけ出すのである。キャンバスさえ買うことのできない貧困ということだが、科学技術の進化は、薄い絵の具層をはがして、二枚の絵にスライスすることも可能になるにちがいない。邪道といえば邪道だが、所有者は絵の価値が2倍に膨れ上がることを思えば、拒否されることはないだろう。

 しかしちょっと待てよというのが、ここからの考察である。下絵を描いて、その上に絵の具をかけて仕上げることは多い。その場合も今後の技術の進化は重なり合った下絵の素描と、その上に乗った絵の具とを、分離することになるだろう。だが重なったものは二つではなくて、一つなのだと考えると、絵の奥深さという話になる。下地は隠されていて見えることはないが、私たちは下地を感じ取りながら、それも含めた全体を見ている。

 現物と写真の違いがどこにあるかといえば、写真は下地をともなわないということだろう。厚みのない表層をすくいとっているだけだ。もちろんそれが写真の魅力でもあるのだが、私たちはオリジナルを前にして目を凝らす。カメラの眼では見つからないものを獲得しようとして、射抜こうとする眼がある。油彩画の醍醐味は、重ね塗られた絵の具の層にある。貧困はギリギリの絵具の厚みを要求するが、画家の意志はそれを拒絶するように、何度も塗り重ねられていく。若き日のピカソにそんな魅力を発見することができたように思う。晩年の天真爛漫な筆さばきも魅力だが、何度も塗り込めた若がきの試行錯誤を経ないと達することのできない境地だっただろう。


by Masaaki Kambara