マイセン動物園展

2019年07月06日~09月23日

パナソニック汐留美術館


2019/7/18

 磁器のもつ白い肌の誘惑に耐えながら、動物の姿を再現できないかと考えたのだろう。デリケートな愛らしさを武器とした磁器の清潔感が、そこでは特性として活かされている。先日名古屋のヤマザキマザック美術館で出会ったロイヤルコペンハーゲンとも共通するロココの宮廷趣味の品格を残している。

 磁器で動物園をつくるという発想は、生物に永遠の命を与えることだっただろう。自然科学が動物園や植物園や水族館を建設していったのに対応して、芸術は個人コレクションを超えた美術館を建設する。生物を標本化して剥製をつくることもできたが、食器の枠に閉ざされた陶芸から、動物作家が誕生する。陶彫という分野の確立は、素材の開発と、それを巧みに操る作家の出会いが必要となる。

 展覧会の最後を飾るマックス・エッサーの黒い肌の動物たちが絶妙だ。なかでもカワウソの黒光りする滑らかな皮膚は、赤色炻器という素材の開発と連動している。固く焼き締められた備前焼を思い浮かべればよい。マイセンでは磁器の発明で知られるベットガーが、その開発に先立って見つけ出したものらしい。白い肌をめざしながらまだまだ土の色から逃れられないが、滑らかな素肌の感触にまでは行き着いたという段階だろう。

 磁器の発明に成功した後は、長らく忘れ去られるが、やがてブラックビューティとしてよみがえってくる。エッサーが面白がられたのは、まずはマントヒヒというような珍奇な造形だった。しかし、ねじられた身体の動きを適切にとらえ、素材のもつ質感を巧みに用いたカワウソの造形によって、1937年のパリ万博でグランプリを獲得する。

 カワウソの胴体の触感は、オットセイやアザラシにも応用は可能だろう。ブランクーシは見事なアザラシを抽象彫刻で表現したが、それは大理石から削り出された彫刻だった。これらの動物は備前焼でも表現可能なものかもしれない。金重陶陽は備前焼中興の祖として知られるが、出発は動物を手掛ける細工師だった。動きを的確にとらえたネズミが残っている。その後の抽象性を増大させる備前焼の革新の原点には、リアリズムをめざした動物表現があったというのが興味深い。

 カワウソはリアリティのある動物表現だが、リアリズムを超えて身体のねじりという動きのみを抽出して拡大させたような、抽象彫刻の一歩手前までたどり着いた気がする。シロクマを含む白い動物たちの行進のあと、突如出現したブラックビューティの印象が、私の中では今も強く尾を引いている。


by Masaaki KAMBARA