柚木沙弥郎 生きとし生けるもの ― 新作《鳥獣戯画図》を中心に―

2019年10月05日(土)〜11月24日(日)

泉美術館(広島)


2019/10/6

 染織家が絵本に挑む。持ち味を活かした布の貼り絵がいい。持ち味と言っても布の感性のことで、染めているわけでも、織っているわけでもない。食材のことを知り尽くしたプロの料理人の技の巧みに出会ったような感じがする。一方で新たな挑戦が鳥獣戯画として開花し、結晶する。自由に流れる線描を活かしたもので型染めの手慣れた操作とは異なったものだ。

 染織家としての実績はすでに確立していた。私はこの人から自作の風呂敷をいただいたことがある。学芸員をしていた40年前、工芸展の開催で集荷に訪れた時のことだったと記憶する。絵画なら大胆な抽象画だったが、工芸だと落ち着いた伝統の響きを伴って、違和感のない洒落た趣きに満ち溢れ、感銘を受けた。

 96歳での鳥獣戯画には、大胆な構想は健在だったが、肩の力の抜けた遊び心が、生きとし生けるものの真実を映し出していたように思う。一連の絵本と合わせて、伸びやかで何気なくいいのだ。かこさとしのメッセージにも通じる子どもに託した平和の希求を感じ取る。戦争体験を持つ同世代との共通性をひしひしと感じるのだ。絵本やアニメや漫画に託した作家活動の良心が、ひとつひとつ消えていこうとしている。加藤周一や大江健三郎や山田洋次や大林宣彦から学びとったと同じ反戦に向けての戦後の決意の表明がそこにはある。

 泉美術館にははじめての訪問だが、展示には本格的な旧来の染織家としての紹介もあり、落ち着いた喫茶室も併設して、心地よい鑑賞空間を演出していた。スポンサーのyou meのロゴには、夢空間の実現に向けた企業の姿勢が受け止められ、私にとっても懐かしい昔日の回顧となった。


by Masaaki KAMBARA