バンクシー展 天才か反逆者か ATCギャラリー)

20201009日~20210117日(予約制)

大阪南港ATCホール


 こんな商法があるのかと驚いた。ストリートミュージシャンならぬストリートアーティストのハングリー精神が、みごとに商品化されるのだと思い知る。これまでその場限りの落書きに拍手を送ってきたのは、商品にならない作品のオリジナリティのゆえだったはずである。しかしここではオリジナルはいわば下書きであって、実作品はそれを写した版画や複製ということになる。クリストはすでにこの方法を用いたが、これまでの美術の概念を逆転させようとしていたことは確かだ。


 タブロー神話の崩壊は、メディアの拡散によって商品化される。「芸術は表現である」という20世紀のイズムを踏襲しながらも、クールにそれを乗り越えて情報が記録として価値を得る。私たちがバンクシーを知っているのは、時折報道される神出鬼没の行動を通じてである。日本にはかつて鼠小僧次郎吉なるキャラクターがいて大衆のヒーローとなった。


 壁を剥ぎ取ってまで残そうというのは、かつての美術観の名残である。剥がせない場合は、家ごと買うということにもなる。額縁に収まったこれまでのオリジナリティに再度ルネサンスが試みられる。それを壁画の復活と見てもよい。かつてメキシコに起こった壁画運動は高みに上り詰めた絵画を民衆の目線に引き戻す社会運動だった。つまり日常生活のレベルに芸術が紛れ込むことで、背景をなしていた社会に再度目が向けられる。ロンドンやパリやニューヨークの薄汚れた場末の路地が、一枚の落書きによって活性化する。それは大都市の目に見えない現実のルポルタージュだという限りでは、エコールドパリの申し子でもある。


 若者で賑わいを見せる現代展は、老人が訪れる古美術展とは異なって、絵になるスポットを写し込んでは配信する。そこではもはや旧来の美術鑑賞の姿はない。



by Masaaki Kambara