建築家 浦辺鎮太郎の仕事

2019年10月26日~2019年12月22日

倉敷アイビー学館


2019/11/22

 バルセロナにガウディ、ウィーンにオットーワーグナーという組み合わせに対応させると、倉敷に浦辺鎮太郎(うらべしずたろう)ということになるだろう。建築家の仕事として主要作品を図面と写真パネルと模型で追う。地味な展示だが、真摯に芸術的成果を浮き上がらせている。倉敷に来て街並みに独特の風情を感じたら、それは浦辺の建築が醸し出すオーラのせいに違いない。奇抜でけばげばしいものでは決してない。上品で、落ち着いて、控えめで、秩序正しく、クラシックな響きを宿している。

 建築家なのになぜクラボーの社員なのかという、通常では考えがたい人間関係に興味が湧く。もちろん大原総一郎を核とした人脈が見えてくる。工場や社員寮や福利厚生や医療施設が思い浮かぶが、普通は建築会社に発注すればよいもので、自社でかかえ込むものではないはずだ。やがては会社に関わる営繕の枠を超えて、美術館やホテルや病院にまで拡大されていく。さらには倉敷にとどまらず、日本各地にまで広がっていくと、いわば倉敷ブランドの地方展開としてみることにもなるだろう。

 旭化成は繊維会社だったはずだが、今では住宅メーカーとしてもよく知られている。今年は社員からノーベル賞を出して話題になった。建築が第二の衣服だとするなら、クラレも建築に手を出してもよかったはずだ。浦辺が考案したプレハブ住宅がある。壁と天井を展開させていく機能的なものだ。新しい民家のあり方を提案しようとする意志の力を、感じさせるものだ。残念ながらこれはその後の展開を、見ないまま終わってしまったようだ。倉敷に来てアイビースクエア国際ホテル中央病院に共通するものを感じ取るとすれば、それは蔵の白壁とマッチしたヨーロピアンスタイルの民家に根ざしたものだろう。

 中世都市をあこがれたとしても、城を取り巻く城下町とは異なった市民の自治が浮かび上がってくる。共和制に根ざした自治国家のもつ溌剌とした気分を象徴するようにファサードが、組みこまれていく。アイビースクエアの中庭を取り巻く回廊は、紡績工場の跡地利用ではあるが、修道院のもつ宗教的気分を宿している。それは学びの場でもあって、赤レンガのもつアカデミアの格調が同居している。自由学芸という気風を思い浮かべれば、閑谷学校にも似た通気性も見えてくる。

 後年の倉敷市庁舎になれば、カラフルなディズニーランドのような遊戯空間も演出されるが、基本的にはシックな土壁に秘められた控え目な茶の美学に範を置いている。民藝運動との同調を考えれば、官を巻き込んだ公共空間よりも、民衆あるいは労働者のもつ草の根文化を基調としたものに、軍配が上がる。上質な趣味人としての側面が、民衆の基盤に立った社会運動と重なって見えてくる。かつて京都で展開した町衆文化のような、あるいは商人の手に委ねられたフィレンツェヴェネツィアのような、裏通りに息づいた都市の詩情を、巨大化しない住環境の上に築いてきたのだと思う。


by Masaaki KAMBARA