志賀理江子 ブラインドデート

2017年6月10日(土)-9月3日(日)

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

2017/8/3


 スライドプロジェクターの昔懐かしい響きが展示室内に鳴り響いていた。しかも20台からの音である。写真展はどう見せるべきかという課題があるが、プリントを壁面に展示するという絵画に似せた方法は、はたして写真というメディアにとって有効かという問いかけがなされていく。ここで面白いのは、プロジェクターで映し出す一方で、大きくプリントアウトしたものも並べられている点だ。しかし従来とは異なる点がある。会場内は薄暗いので、展示されたプリントアウト上にもスポットライトがあてられるが、全体ではなくまさにスポットに光があてられる。原理としてはスライド上映をなぞるような効果を演出している。

 明るい展示室内で鑑賞する美術品とは異なった体感を伝えようとするもので、それがブラインドデートと題された今回の企画と共鳴している。それは写真論の根幹にも通底するもので、志賀理江子はそのコンセプトを伝える見事な文章を提示している。

 その中ではっとさせられるフレーズに幾度か出会った。バンコクで多数のバイクに乗る恋人たちに出くわし、これを写真に残したいと思う。多くは男の背中にもたれかかる女性の表情が大写しにされている。このときの注文は「笑わないように」。

「絶対に笑わないでとも言った。笑顔は本当の顔を隠すから、と」

 そのせいか無表情の女性たちが謎めいて見える。笑顔の方がよっぽど正直な姿ではないかと思ってしまう。しかしこの表情が、とても魅力的だ。軽い恍惚感、アンニュイというフランス語が適切なようだ。そこからこの写真家は、とんでもない妄想を抱くことになる。

「こんなにバイクに乗った恋人たちがいるのだから、背後から目隠しをして走り続け心中したなんて事件があってもおかしくない」

 これがブラインドデートという謎めいた表題を生むことになったのだろうか。その後そんな心中事件がなかったかまで調査したのちに、盲人に扮して目隠しをしてバイクを運転してもらったり、盲目のカップルに出会ったりして作品の精度を上げていったようだ。もう一つ気にいったフレーズはこれだ。

「深海に潜むほとんどの生物は、自らの身体を発光させるという」

 盲人の男女を写し出したポートレートの一枚は、深海魚にも似て確かに発光していたように思う。これは写真論としても読めるが、私にはアクアラングを身につけて深海に挑む女性カメラマンの姿が目に浮かんでいる。今後の展開が、楽しみな写真家である。


by Masaaki KAMBARA