小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンヘ

2019年12月21日~2020年02月16日

岐阜県現代陶芸美術館


2020/1/26

 滲み入るようなデリケートな描線が奏でる繊細なメロディを満喫した。以前、川越で見た記憶が薄れようとする中で、再会できたのは、今にも消え入ってしまおうとする後ろ姿と横顔だったように思う。黒髪がほつれる微妙な階調を、心に留めていたのだろう。

 こんなに細い線が木版画になるのかという驚きは、制作工程に立ち会わないと実感はできないはずだ。春雨や夜雨というタイトルに込められたリズミカルな季節感が、黒髪を照らし出している。ランダムな傘のリズムがいい。大正のリベラリズムに支えられた古き良き時代を回顧する。雨足もまた一様ではなく、雨傘がそれに対応している。戦靴の響きが高まりはじめる頃の、ささやかな反応にも見える。

 漆黒を活かした闇の叙情が、小舟を浮き上がらせて、何でもない夜景を包んでいる。それは挿絵を超えて多くのドラマを語りはじめる。人物不在の風景は少なくないが、どこかに人の立ち去ったあとの、余韻を残している。香りと言ってもいいが、江戸情緒をかたちづくってきたものだろう。


by Masaaki Kambara