1909 現代名家百幅画会

2023年01月07日~02月13日

高島屋史料館


2023/2/11

 同じサイズの掛軸を、1909年の時点で新人も含めて第一線の日本画家たちに依頼して、新作を一堂に介した展覧会をおこなう。そこでは画家の個性を見比べてもいい。風景画あり、人物画ありで、自分の得意の分野を描けばよいということらしい。100人のなかには竹内栖鳳もいれば横山大観もいる。菱田春草までいて驚いたが、この短命の画家は1909年にはまだ生きていたということだ。はからずも画家たちの腕自慢となったわけで、締切までの限られた時間を共有し、サイズも同じところから、ついつい比較をしてしまうのだ。

 「現代名家百幅画会」と題したこの展覧会を再現しようという企画だが、所在のわかる4点のみが展示され、あとはパネルで百点が並んでいる。明治と言わずに1909というのが新鮮でいい。当時の展覧会画集が残されていて、精密な画像をもとに写真パネルがつくられた。探せば残りの96点は見つかるはずだ。現存の4点の入手経路を追跡することが手始めだろう。一点は笠岡の竹喬美術館に寄託されているようなので、そこからたどってゆくことが手順となる。高島屋が展示会後に希望者に販売の仲立ちをしただろうから、探せばその記録も見つかるはずだ。そんなことを思ってしまうのも、この展覧会が画期的で、写真でみる限り作品も良質で、壮観であったと思えるからである。学芸員の地道な調査が続くのだろうが、NHKが一肌脱げば、ファミリーヒストリーのように、またたくまにそろってしまうにちがいない。

 東京画壇と京都画壇のライバル意識は、池田蕉園と上村松園という女性画家の描く美人画が並んで展示されたことからもうかがえる。前者に対し、後者は描き込みが足りなかったようで、松園は会期がはじまってから作品を差し替えたというエピソードも残っている。菱田春草の山水画は、もはや朦朧体ではない。西洋の風景画にも似て、陰影のコントラストが雪の山岳を写し出しているようにも見えるが「妙義の秋」と題されている。隣に並ぶのは山元春挙の「秋の嵐山」だが、ここでも東洋画の伝統を逸脱しているのが特徴的で、同時に東京と京都の日本画の勢力分布の対比が読み取れる。

 さらに隣には竹内栖鳳の「小心胆大」が、西洋影響を嘲るように禅的悟りをうながしている。のっぺりした瓜の大きさが、芒洋としたおおらかな人生観を反映して、小気味よく目に映る。よく見ると小さな蟻が5匹表面を這っているが、言われないと気づかない。水墨で写実の表現の究極を探る中国画の伝統を学んでいて、画題に秘められた大胆で小心な絵の極意を教えてくれる。もちろん栖鳳も出発は写実を極めたひとだった。


by Masaaki Kambara