香川元太郎の世界展

202012月5日 ~2021年2月7日  

芦屋市立美術博物館 


 これはおもしろい。作者のこだわりが一作一作から伝わってくる。画面は三つの要素から成り立っている。第一はテーマの問題。日本の歴史からスタートして世界史に広がっている。自然に目が向かうと宇宙や恐竜。昆虫と海洋。それらは図鑑に展開できる知識体系をなし、学童を面白がらせながら、知識へと誘導する。道を通して社会構造を教えようとして「迷路」が導入されるが、これが第二の要素であるゲームとなる。ゲームは迷路だけではなく、人間の想像力の問題へと展開する。これが第三番目のテーマ、アートの問題となる。

 レオナルドダヴィンチは目に見える世界をとことん追究したが、それらはすべて絵になった。そして科学を超えて芸術となった。香川元太郎の絵本世界は、美術史のメインストリームに根ざしていて、単なる流行の産物ではないように思う。隠し絵的要素は「ウォーリーを探せ」に同調するが、さかのぼればエッシャーに、さらには同郷のブリューゲルに行き着くし、同じ文化の系譜は遠近法が紹介された江戸の好奇心のなかで、北斎に結晶するものだ。

 具体的にいえば階段の多用は、エッシャー空間と共通するが、違うのはここでは重力の法則にのっとったリアリティを崩さないという点だろう。バベルの塔はブリューゲルが下敷きになっているのは間違いない。アリのような人間のちっぽけな営みを、ブリューゲルは否定しているわけではなく、好奇心をもって眺めている。道が迷路のように続く俯瞰的構図は、北斎の「百橋一覧」を想起させる。本当に橋が百、描かれているのか数えたくなってくるとすれば、ここでの興味と共通するものだろう。

 ロビーに設置された実物大の迷路は、飛び出す絵本と見てもよいが、美術館での展覧会というスタイルを維持するには、欠かせないアイテムで成功している。絵本作家の美術館での展覧会が増えているが、印刷メディアをメインとする場合、原画展だけではあまりにも芸がない。ディスプレイにかかるコストも考慮する必要はあるが、絵本の販売目的と見られないためにも、工夫のしどころだろうと思う。平日のせいもあるのだろうが、意外と高齢者の鑑賞が目についた。65歳以上半額という意味は、学童以上に脳の活性化を求められる世代への配慮だったように思われる。


by Masaaki Kambara