近代日本の視覚開化 明治—呼応し合う西洋と日本のイメージ

2023年04月14日~05月31日

愛知県美術館


2023/05/19

 明治初期の写実を追求するあくなき欲望には脱帽する。ことに日本画の体裁を取る油彩画の写実には、目を見張るものがある。絹本着色とあるので油絵とは言わないほうがいいのだろうが、明暗法を駆使した観察眼は、写真をそっくりになぞっているようにさえ見える。今では色褪せてしまっているが、横浜写真と名づけられた写真店の視覚も刺激的だったはずだ。変色しているとはいえカラー写真の登場する以前のモノクロームには、水墨画の風格があったにちがいない。

 こうした技術的革新の風土に芸術性と天分が加味されたという点で、五姓田義松がキーポイントとなるだろう。これまでまとまって見たことがなかったので、高橋由一や浅井忠以上に新鮮に見えた。今回初展示となった明治5年の「丹青雑集」と表紙に書かれたアルバムは衝撃的だった。フランス語が添えられていて、習作集、デッサン、水彩画、油彩画のコレクションとあり、横文字の自筆サインが読める。各ページには絵葉書大の油彩画や水彩画やデッサンが、まるで切り抜かれて貼りつけられているのかと思った。

 もちろん彼一人が突然あらわれたのではない。横浜という土地にねざした開国という前向きの姿勢と好奇心が生み出したものだっただろう。五姓田という姓を持つ一族が培ってきた血の結実でもあった。同じ横浜にその後の立場は異なるとはいえ、岡倉天心も生まれ育っている。天心周辺でいえば、橋本雅邦の日本画を興味深く見た。狩野芳崖が並んでいるのだと思って近づいてキャプションをみると雅邦だった。これまでいだいていたイメージが逆転した。下村観山が留学先のロンドンから送った私信も興味深かった。軸装で伝統に従った観音図の一点では色彩けばけばしく顔立ちも生々しい。滝を背景にしており、横尾忠則が描いたのかと思わせるような擬古趣味が目立っていた。

 今回の展覧会はこまごまとした手稿や印刷物が大量に展示されていて、ガラスケースに入っているのでなければ、時間をかけて1ページづつめくっていきたい誘惑に誘われるものだった。所蔵を見れば横浜にある機関が多く、研究の宝庫なのだろうと思った。横浜や鎌倉の近代美術館で学芸員たちが牽引してきた研究史の妥当を確信できた。今回ははからずも名古屋で見ることになったが、同時代の愛知県での発掘も加わって、またまだ明治文化は各地に埋もれていることも教えてくれた。意欲的な意気込みを感じる展覧会だった。


by Masaaki Kambara