せとうちの大気—美術の視点

2022年08月05日~09月04日

香川県立ミュージアム


2022/08/26

 特別展は残念ながら記憶に残るものは少なかったが、そのことが併設された常設展示をおもしろく見る機会を与えてくれた。空海の展示は企画展の続きにあるのでこれまでも見ていたが、上の階まではあがったことがなかった。歴史分野のコーナーでは原始時代の住居跡から、昭和の日常の食卓までを模型によりリアルに再現されている。瀬戸内芸術祭の付け焼き刃の仮設感にはない存在のリアリティに感銘を受ける。もちろんそこにはリピーターを期待できないという弱点はある。県立ミュージアムを訪れるとき、たいていは特別展での美術鑑賞を目的としていた。今回がはじめての本来のミュージアム体験だっただけに満足度を増した。ずいぶんと大きな博物館なのだと、あらためて確認した。

 現代アートでは常設のガラスケースは似合わない。そこでこれを揶揄するように、きまってパロディや見立てがなされる。今回でいえば何列ものガラスケースのなかに、白いリンゴを5点並べて、海景に見立てた会場構成や真っ白の画面だと通り過ごしてしまうのを楽しむトリッキーな微芒画を、現代アートとして面白がるためには目を凝らすだけの想像力が問われる。それらは作家の実力を棚上げにした場の磁力に由来しており、キャリアのない若い作家には荷の重いものだったかもしれない。

 博物館の展示をおもしろがる視点は、従来は考古学や自然史の興味に由来するものだっただろうが、アートという異なった価値観からも、確固たる造形性という点で見直すことが可能となる。部外者にとって香川県の歴史そのものに興味はなくとも、そこに登場する古生物や住居には、それが模型であるという点で普遍性を宿しているものだ。杉本博司がニューヨークの自然史博物館で剥製のシロクマを見て、写真というメディアで、現代アートとしてよみがえらせたねらいがわかるような気がした。模型の写真撮影はもちろんした。杉本のような写真にはならないのも、もちろんではあったが、ただ「せとうちの大気」だけは感じとることができた。


by Masaaki Kambara