第996回 2026年3月3日
シアン・ヘダー監督・脚本、原題はCODA、エミリア・ジョーンズ主演、マーリー・マトリン、トロイ・コッツァー、ダニエル・デュラント共演、アカデミー賞作品賞・脚色賞・助演男優賞受賞、111分。
耳の聞こえない家族のなかで、ひとりだけ耳が聞こえて生まれた娘(ルビー・ロッシ)の物語。今は17歳になっているが、これまで便利づかいをされてきたことから、これから先の自分の将来を真剣に考えはじめていた。
父(フランク)と母(ジャッキー)はともに耳が不自由であり、兄(レオ)も生まれた時から聞こえなかった。父と兄は小さな漁船に乗り、母親は家にいて、家事を受けもっていた。妹がひとり通訳として、手話をしながら、ことばになおすことができた。家だけでなく船に乗り込んで、漁師仲間とのコミュニケーションも引き受けていた。
高校生になり、学校での部活動を選ぶのに、仲の良い女友だち(ガーティー)と相談しあっていたが、前に並んでいた男子学生(マイルズ)に魅力を感じて、同じ合唱部を選んでしまう。親友は突然のことで驚いている。
音楽教師(ベルナルド・ヴィラロボス)の前に集まって、一人づつ発声をすることになるが、自分の番がきて、何も言わずに逃げ帰ってしまう。その後、教師に謝りに行き、家の事情を話し、歌うことの楽しさを訴える。
教師は娘の声に可能性を見つけていた。才能を伸ばしてやろうと、合唱だけでなくデュエットの指導もはじめる。相手は娘がひかれていた男子生徒だった。別々に練習していてもうまくはならず、二人で時間をつくることになった。
娘の家で練習をはじめるが、両親が帰ってきて、気を回してしまう。娘のことは知っていて、自分の家と比べて仲がいいのをうらやましがっている。レストランで見かけて、娘が通訳をしている姿も記憶していた。
特殊な家族であり、有名だったのだと、娘はあらためて恥ずかしい思いをした。両親が帰ってきて二人を前にして、二人の仲を勘ぐりながら、卑猥なことを言いはじめる。手話で通訳することもはばかられる。
両親が大きな音を立ててセックスをしているところも聞きつけられて、娘は恥ずかしくてパートナーを帰らせた。学校でそのことが噂になると、娘はおもしろおかしく話したのだと相手を疑い、口もきかなくなってしまう。
男のほうは音楽大学をめざしていた。教師は娘にも進学を進めるが、家の事情はそれを許さなかった。個人レッスンに教師宅にも通ったが、家の仕事とぶつかって遅刻することが続くと、教師は指導を投げ出した。
娘は悩みながらも、歌う喜びを捨てることができない。しかし、いくらうまく歌っても、両親の耳には聞こえない。漁協との問題もかかえていた。安く買い上げられて貧困が続くと、独立して自前で販売をしようとも考えている。
自己主張を伝えるためにはどうしても娘の力が必要だった。自主活動がマスコミに取り上げられて、放送の取材が入ったとき、娘はレッスンと重なっていた。母親は娘に懇願する。娘はやむなく家に残ることになった。
娘が仲直りをしたパートナーと、二人だけの時間を楽しんでいて、乗船しなかったことがあった。船の安全を調査する係官が乗り込んでいたときで、耳の聞こえない者だけであることから、沿岸警備隊を呼んで問題にした。免許を取り上げられ、罰金を科されることになると、父親は船を売るしかないと弱音を吐いた。
兄は妹の将来を思い、このままではずっと犠牲にされたままだと、妹の自立を訴える。両親はわかっていても、ずるずると娘に頼ってしまう。通訳を雇うにしてもそんな余裕はなかった。
学校での発表会が迫り、母親はドレスを娘のために買ってきていた。娘はそれを着て合唱をし、デュエットを歌った。父親は自分には聞こえないが、観客を眺めることで、涙する者がいることから感銘を受けている。兄は仲良くなった妹の友人と聞いている。
デュエット曲はラブソングだったが、帰宅後、娘と二人になってもう一度自分のために、歌ってくれとリクエストをしていた。娘は進学のことは親にも話したが、あきらめをつけて教師に決断を語った。
パートナーは受験に向かった。朝が来てまだ間に合うと判断した父親が、車を走らせ娘を乗せて試験会場に向かう。遅刻したが聞くだけ聞こうと審査員は言ってくれた。伴奏者が引き受けることができず、アカペラで歌うよう指示されたところに、すでに帰っていた教師がかけつけた。
自分は卒業生だと名乗り、伴奏をはじめる。二階席に家族の3人がいることに目を止めると、手話を交えながら歌い続ける。審査員たちはその仕草に何事かと思って振り返っていた。
パートナーは顔を合わせたとき、失敗したと言っていて、不合格だった。崩れかけた仲も、10メートルの高さのある崖から水に飛び込むことで修復されていた。娘も進学はあきらめていたが、合格がわかると家族は飛び上がって喜んだ。
親の敷いた道を進んでいた相棒とはちがって、娘は自分で勝ち取った道だった。男は大学がはじまれば、訪ねていくというが、その頃には新しく出会ったチェロ奏者と仲良くなっているのだろうと、敗北の弁を伝えている。