第688回 2025年3月8日
ノーマン・ジュイソン監督、アメリカ映画、原題はIn the Heat of the Night、シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー主演、クインシー・ジョーンズ音楽、アカデミー賞作品賞・主演男優賞・脚色賞・音響賞・編集賞受賞、109分。
アメリカのいなか町で起こった殺人事件を追う黒人刑事(ヴァージル・ティッブス)を主人公として話は展開する。大都会のエリート刑事で、母親の住む町を訪れ、駅で帰りの列車を待っていた。殺人などは起こったことのないのんびりとした町で、警察署長(ギレスピー)はよそものの反抗と判断して、駅に部下を向かわせていた。
連行して財布には大金が入っている。殺害者から現金が盗まれていたことから容疑者として取り調べられる。身分を明かすと警察手帳を取り出して見せた。署長は不審に思い、問いただすと週給を答えた。署長は自分と比べて、その額に驚いたが、殺人専門の名の知られた優秀な刑事だった。黒人への偏見から誰もが見下していたが、署長はこれまで殺人事件を扱ったことなどなかった。
身分は刑事の所属先に問い合わせることで証明されたが、興味をだいて死体を見てみようかと持ちかけている。署長はプライドが許さず、自分たちで捜査すると言い張るが自信はない。遺体を見て顔や首や足に触れて、あざやかな分析をおこなってみせた。
容疑者(ハーヴェイ・オバースト)が浮上して逃走中だという情報が入る。州を越えて逃げるのを、署長は州境のギリギリのところで、車で追いついて逮捕する。その男は被害者の財布を持っていた。連れ帰られると自分は殺してはおらず、殺害されたあとに通りかかり、財布を盗んだのだと主張している。署長は犯人と断定して、手助けを必要としなくなったと判断するが、容疑者が左利きであることから、犯人の一撃が右手によるものだったことに、疑問を投げかけはじめる。
被害者(フィリップ・コルバート)は会社経営者で、この町に大規模な工場を建設中だった。妻が呼び出され、署長よりはやく黒人刑事から、いきさつを聞いていた。署長が犯人を連れ帰るが、真犯人が別にいるという黒人刑事に耳を傾けて、町の警察に不信感を抱きはじめる。市長のもとに出向いて、黒人刑事を事件担当にしてくれと頼んでいる。そうでなければ工場建設から手を引くとまで言った。
市長は警察署長を呼びつけて、夫人の意向を伝える。署長は今度は黒人刑事に頼むことになるが、愛想をつかして関わらずに帰宅しようとしていた。工場建設により多くの黒人の雇用も生まれるとメリットを示して説得する。
黒人刑事は工場建設を歓迎しない土地の有力者の存在に注目する。車に残されていた枯れ枝をはじめ、犯人の残していった手がかりから、棉花工場を営む有力者(エンディコット)を訪ねる。署長が同行するが、ここでも黒人であることでの人種差別を受けている。主人公は有力者の手下から、暴行を受けようとするが、署長がやってきて助けることになる。第二の殺人が起こることを心配して、これ以上関わらずに帰ってほしいと思っている。すげない態度ではあるが、黒人刑事の身を心配するようになっていた。
次に署長が、犯人として決めつけたのは部下の警官(サム・ウッド)だった。殺人の発見者であり、パトロール中での出来事だった。黒人刑事は事件当日のままパトカーの行動を繰り返すよう警官に頼んだ。署長も同席していたが、警官はパトロールの道を外れて迂回した。
これを怪しんで、個人情報を明かさない銀行に、強引に圧力をかけ、刑事の預金を探ると、事件後に大金の入金が確認された。尋問するとコツコツとためたお金をまとめて入金したのだと答えるが、署長は信用しなかった。警官が殺害して奪ったという判断だったが、黒人刑事はその誤審にあきれている。
いつものパトロールの道ぞいには、窓から裸で誘惑をする娘(デロリス)がいて、その家を避けて迂回していたのだった。今度はこの娘の兄(ロイド)が、警察に乗り込んできて、警官が妹を妊娠させたと叫んでいる。娘はまだ16歳だった。警官の犯行なのかを調べようとして、黒人刑事は先に留置されていた容疑者に、この町で誤って妊娠してしまったらどこにいくかと尋ねている。男は相談に乗る黒人女(ママ・カレバ)が一人いることを明かすが、簡単には教えないだろうという。
黒人刑事はその女にまでたどり着くと、もうすぐ娘がやってくるのだと言う。娘は顔を見せるなり黒人刑事がいて逃げ出すが、娘のそばにいたのは、警官がパトロール中に休憩するカフェの店員(ラルフ・ヘンショウ)だった。娘の財布には堕胎のための大金が入っていた。
兄がそれを見届けて確認し、妹を妊娠させた男に詰め寄ると、男は発砲して兄を撃ち殺してしまった。二人の殺人犯として男は逮捕される。警官の容疑も晴れ、署長は黒人刑事を見送りに駅に出向いている。今までのような不信感をむき出しにした、冷ややかな表情は互いになく、そこには肌のちがいによる差別を乗り越えた笑顔があった。
署長を演じたロッド・スタイガーが主演男優賞に輝いたが、短気で暴力的な差別主義者が、黒人への偏見を少しずつなくしていって、最後には笑顔にまで行きわ着く流れがいい。シドニーボワチエは、好青年のエリートという役柄に好感はもてるが、これまで演じてきたものと類似して、ワンパターンに見えたかもしれない。
夜の熱のなかでという原題は、夏の夜の暑苦しさに、窓際で裸になる少女の姿であるし、夜の闇にまきれて殺人を犯す姿でもある。クインシージョーンズの熱を帯びた夜の響きが、場面をもりあげていた。