第423回 2024年3月24日
ウィリアム・ワイラー監督作品、グレゴリー・ペック主演、アメリカ映画、原題はThe Big Country。東部の男(ジェームズ・マッケイ)が西部の娘(パット)と出会って恋に落ち、娘の住む西部にやって来て、住み着こうとしている。男は父親が海運業をしていて、自身も船長だった。広大な西部にやってきて、広いだろうという自慢する相手に、海はもっと広いと言い返している。娘の父(テリル)は少佐と呼ばれているので、従軍していたことがわかるが、今は牧場主として広大な土地を相手にしている。
西部の気性は荒々しく、娘にもそれは受け継がれている。男が静かで争いごとを嫌うのを不満に思っている。海を捨ててここまでやって来る限りは、娘を愛していたからだったが、やがて感情のすれ違いが起こっていく。娘は父との絆が強く、父と別れて夫について行くことは避けたい。そのために西部での生活を気に入ってもらう必要があり、父は最大のもてなしをしようとするが、多くの困難に遭遇する。
やってきた日にさっそく手荒なあいさつを受ける。敵対する無法者の一家(ヘネシー)が、ふたりを乗せる馬車を止めて、嫌がらせをする。女は憤るが、男は抵抗もしない。袋叩きに近い仕打ちにあっても、海に出てもそんな手荒な船員は多かったと言って動じない。紳士の服装をしていたが、西部でかぶる帽子とは異なっていたことから、取り上げられて、放り上げられ、銃で撃ち抜かれている。屈辱を前にしても、帽子に穴が空いていないのを確認すると、へたな拳銃さばきだと評してかぶり直している。
そんな姿を見て女はいらだちを隠せない。このことを知った父親が、翌朝大勢の手下を連れて狩りに行くと言って出かけた。敵の本拠に乗り込み、娘の夫になる男におこなった悪事の報復をはたそうとする。主人(ルーファス・ヘネシー)も、嫌がらせの首領だった息子(パック)も不在で妻と子どもの少年しかいなかったので、貯水槽に弾丸を打ち込み、水を放出させている。荒野にとってはかけがえのないのが水だった。
敵対するふたつの勢力が求めるものも水源だった。牛を飼育するのに欠かせない水源のある土地(ビッグ・マディ)を所有したいと争っていた。そこは古くからの所有者がいたが、今は町で教員となっている女性(ジュリー・マラゴン)が相続していた。父の時代から両者に分け隔てなく水を供給してやっていた。両勢力はともに独占したいと望んでいる。主人公の妻となる娘は、この教師と親しく、敵対する勢力の息子も女教師に言い寄っていた。
本人は嫌がっていたが息子は父親に、女のほうが自分に気があると告げると、父親は喜んで連れてくるように言った。水源を自分たちのものにする絶好の機会だった。主人公の側でも相手の牛の群れに水を飲ませないよう、追い払って嫌がらせをしていた。主人公は二つの勢力が、水源を独占しようとする醜い争いを見かねて、動きはじめる。
単独で水源の地を探して旅に出る。無断で出たので婚約者は心配し、父は四方に人をやって捜索にあたらせている。道に迷ったのか見つからない。見つけ出したのは、父親が頼りにする屈強の使用人頭(スティーヴ・リーチ)だった。彼もまた娘を愛していたが、軟弱な男に奪われたという思いが強かった。ふたりの恋敵はこのあと殴り合いの力比べをすることになるが、とことん殴り合うことで打ち解け、軟弱と思っていた男を見直すことになる。
船員の経験はコンパスを用いて、迷うことなく目的地にたどり着いていた。そこには婚約者を介して知り合いになっていた女教師が来ていた。廃屋となった邸宅跡が残っていて、水源の池にも案内された。思い切って切り出したのは、この土地を自分に売ってもらえないかという交渉だった。女は男が一方の勢力下にあったので、はじめは提案を嫌ったが、男の真摯な態度に信頼感を得て、売る決意をする。男は独占するのではなく、自分が牧場主となって自立することを伝えた。東部の海の男が西部で水を取り戻したのだった。
土地を手に入れたことを婚約者には黙っていた。婚約者が知ったのは女教師の口からで、それを知ると男を見直すことにもなるが、自分たちの陣営の勝利を喜ぶ姿を見ると、主人公は不信感を募らせていく。はじめて訪れたときに荒馬に乗ることを拒否していたことも、女には不満だったが、その後乗りこなせるようになっていたのを、それを見届けていた下僕から聞き知ることになる。自分の知らないことを他人が知っていることは許せない。女の勘は、女教師が自分の婚約者を愛しているのだと言いあててもいた。
一方、敵対する家では、女教師を無理やりに父のもとに連れてきた息子が、父に見破られる。息子が一方的に言い寄っているだけで、女は嫌っていることを確信した。息子はならず者だったが、父は意外としっかりとした考え方をもつ人物だった。不在中に家が襲われた仕返しに、花婿となる男を祝うパーティを開いている、相手宅に単独で乗り込んだときも、勇気のある正統な主張のできる人格であることを知らせるものだった。この役を好演したバール・アイヴスがアカデミー賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞している。
水源のある土地を売るよう強要された女教師は、すでに手放したことを伝えた。彼女がとらわれたことを知った主人公が、丸腰で助けにやってくる。息子が威嚇すると、女教師は男の身を案じて自分の意志でここにきたのだと偽りを言う。父親はそれを見て、すべてを理解したようだった。連れ戻そうとするとふたりの男は殴りあいになる。息子が銃を向けると、父親が丸腰の相手を撃つのかととがめて、短銃による決闘を提案する。それは馬の背に乗せていたもので、結婚を前提にフィアンセの父に贈ったものだったが、破局を迎えて返されてきていた。
古式に則って決闘をおこなう。息子がルール違反を犯して、先に発砲する。銃弾が主人公のこめかみをかすめる。次に主人公が、発砲する番がきて、息子はおびえてうずくまると、主人公は的を外して地面に向けて発射した。命拾いをした息子は、近くにいた仲間の銃を取り上げて撃とうとしたとき、父親がそれを許さず息子を撃ち殺していた。息子の愚かさを嘆きながら、悲しんで抱きしめている。
女教師を連れて主人公は立ち去ることになるが、父親は相手と一騎打ちをすることで、これ以上の犠牲を出さないことを念じて、近づいてくる敵に向かった。息子を撃ち殺したときに自分も死んでいたのだろう。愚かな争いに終止符を打つ。相手の元少佐もそれに応じて、一対一の対決に挑んだ。ふたりは同士討ちとなり、命を落とすことになる。
ラストシーンは主人公と女教師の後ろ姿だった。顔を見合わせて笑みをかわすのには違和感を抱くが、馬に乗り立ち去ってゆく。主人公に従う下僕を加えて三頭の馬が向かうのは、主人公が買い取った水源のある土地であることが暗示される。
廃屋となっていた邸宅を改装して牧場主としての新しい生活がはじまっていくのだろう。もっと空想を羽ばたかせれば、婚約者はチャールトン・ヘストン演じる恋敵と結ばれる。頼もしい勇姿は、少なくともグレゴリーペックよりも、彼女好みにちがいない。ふたりの男も、すでにたがいに心を通わせていたので、うまくおさまりはつくのだ。
敵対していたボスはともにいない。ならず者の愚かな息子も死んだ。小さな弟がいたはずだ。母親とともに善良に生きていくことになる。ハッピーエンドは描けるが、昔の男を忘れきれない女心の泥沼も、同時に見つめることもできる。愛は求めるが、それが独占か博愛かで起こるドラマである。いずれにせよ、楽しませてくれる映画だった。