日本の素朴絵 —ゆるい、かわいい、たのしい美術—

2019年07月06日~09月01日

三井記念美術館


2019/7/19

 「ゆるキャラ」の発祥を探る展覧会である。埴輪から始まり仏像から絵巻を経て、大津絵や円空木喰へと、江戸の庶民性を中心に話は展開していく。府中美術館がこだわりを持って進める江戸のおもしろアートの企画とも連動する。解説にも「ゆるい」という語が連発されるが、そんな美意識は日本の美学にはなかったはずだ。掘り起こすと見つけ出されるが、早くから目をつけたのは柳宗悦だったようだ。日本民藝館の所蔵する古画が何点か出品されていたが、ともにすごくいい。民藝の感性が冴えわたっている。

 素朴絵と称しているが、アンリ・ルソーやボンボワなどを想定してのことだろう。ヘタウマという語が登場したのは最近のことだが、プリミティヴが発見された20世紀初頭の文化動向を踏まえる必要がある。万国博覧会による東洋やアフリカの発見と連動して、未開美術と原始美術によるプリミティヴィズム、さらには児童画が加わることで、市民権を得ていく。「へたも絵のうち」とした熊谷守一は、近代日本での素朴絵の原点だろうと思う。しかし「ゆるい」とは少し違うようだ。

 「ゆるい」とは、平和の代名詞のように聞こえてきて、大切にしないといけないキーワードだと思う。戦争に明け暮れていれば、このスローガンでは勝てない。ゆったりとした余裕と言い直せるだろう。気をつけないといくらでも太ってしまう服飾の用語でもある。身体にあわせて服を着るのではなくて、服に合わせて身体を拘束する。身体の解放が「ゆるい」と連動すると、マツコのようなデラックスが誕生する。ゆったりとした衣服は悲劇にふさわしいと、フランスの思想家アランは言ったが、それはまとわりつく運命から逃れられないという意味だったと思う。しかしそれは同時に平和に対する戦争の危機感を伝えようとしたのではなかっただろうか。平和の麻痺は戦争を希求する。ゆるキャラが絶滅しないように、しっかりと支えていきたいと思うのだ。


by Masaaki KAMBARA