恐竜図鑑—失われた世界の想像/創造

2023年03月04日~05月14日

兵庫県立美術館


2023/5/9

 何億年も前の恐竜を、いま人類が感慨深くながめている。人間が恐竜の大きさに驚き、目を見張っている姿が、展示された絵に出てきても不思議とは思わないが、実際には恐竜のいたころには、まだ人類は誕生していない。それならここに並んでいる光景は、誰が見たものなのかと考えると、不思議な時空間の構造を、タイムスリップしたサイエンスフィクションとして、受け止めることになる。化石が残っているだけのことなのに、そこに皮膚をかぶせて想像力を駆使して生命体を作り上げていく。それはちょうど3Dアニメを制作しているときの質感をもって彩色していく作業にも等しい。

 恐竜に興味をもつのは子ども心なのだろうか。幼い頃、図鑑に出てくる挿絵を驚異的に受け止めていた記憶がある。植物図鑑や動物図鑑に混じって、恐竜と宇宙の巻がとりわけお気に入りだった。今回の展覧会では、ツレは恐竜には興味がないのか、あっという間に鑑賞を終えていた。それならなぜ来たのかというと、恐竜の卵をミュージアムショップで買うよう、子どもから頼まれていたからだった。

 硬い石のような卵で、カナヅチで叩き割ると、中から恐竜が出てくるという一回限りのおもちゃだったが、なかなか割れないのがおもしろいらしく、もう一匹ほしかったようなのだ。会期が終わりに近かったので売り切れてしまっていた。よく売れたのだろう。それが確実に体感のできる、手ごたえを感じるものだったのに対して、恐竜の絵は、すべてが絵空事に過ぎなかった。人間がイメージで描けるものはたかがしれている。割ったときにぼんやりとした化石の影が見えてくるという発想は、子ども心をもたかぶらせたにちがいない。描かれた恐竜は、ゴジララドンなどすでに怪獣映画で見なれたものでしかなかった。シュリーマンが土くれから古代ギリシャを夢想したときが、もっともスリリングな瞬間だったのだ。中には陳腐な恐竜が埋め込まれていても、ミュージアムショップの恐竜の卵はこのことを教えてくれた。


by Masaaki Kambara