パッション20

所蔵作品展 パッション20 今みておきたい工芸の想い

2019年12月20日~2020年03月08日

東京国立近代美術館工芸館

 パッションは「情熱」と同時に「受難」という意味を持っている。工芸館が金沢に移転するらしい。今回の企画が東京での最後になるという。必ずしも金沢である必要はないのだろうが、工芸を継承するにふさわしい地として、認知されたということだ。勝因として思いつくことはいくつかある。

 工芸を近代美術から切り離す必要もないのだが、あえて近代から分離するには、現代と結びつくことが肝要だったと思う。金沢には21世紀美術館というドル箱がある。これに連動させて、おしゃれな現代感覚で生き残り策を講じたと見ることもできる。国を挙げて「工芸」という名の死語化を食い止めたいという共同戦線なのだ。それによって金沢をライバル視する目が緩和され、工芸の応援団に回るということになるだろう。

 新幹線で東京から近くなったということも一因だろう。兼六園とともに、工芸は和菓子が支える食文化と、場を共有してきた。旧城下町はその条件を満たす定番をなし、仙台藩でも松江藩でもよかったのだろうが、加賀藩に落ち着いたということだ。もちろん京都は大御所だが、そこを二条城のもとに開けた城下町というには、違和感がある。兼六園を中心に文化施設は集中し、歩いて回れるという手頃さも付加価値をつけている。少なくとも江戸城(皇居)わきにある今の竹橋の立地条件よりはよいはずだ。

 有終の美を感じながらこれまで親しんできた工芸の近代を噛み締めた。北原千鹿の羊がいい、金属なのに柔らかい。藤井達吉の電気スタンドがいい、工芸を超越して古くさいのに新しい。生野祥雲斎の竹がいい、しなやかな獣の匂いがする。富本憲吉の白磁がいい、これ以上の品位はない。森口華弘の友禅がいい、細やかな神経はさざなみの音する。志村ふくみの紬織がいい、宇宙にまで広がる精神が荘重な交響楽を奏でている。玄関では巨大な赤い手が「さらば」と言って手招きをし、漆黒の現代陶芸が身もだえをしている。これが現代のパッションのありかだろうと思う。金沢での新たな展開と「情念」を期待したい。


by Masaaki Kambara