第464回 2024年5月18日
ロバート・マリガン監督作品、原題はTo Kill a Mockingbird、グレゴリー・ペック主演、アカデミー賞主演男優賞、脚色賞、美術賞の3部門で受賞。原題のマネシツグミは無害を意味し、これを殺すことの是非を問いかけている。人種差別が色濃く残るアメリカ南部アラバマ州での話である。
弁護士(アティカス・フィンチ)を父にもつ兄(ジェム)と妹(スカウト)がいる。母親は死んでしまったようで、父親がふたりを育て、慎ましい生活を送っている。黒人のメイドがいて、母親代わりに厳しくしつけている。いたずら好きな子どもたちで、妹は女の子のような服装で学校に通うことになったのが恥ずかしく、男の子とも取っ組み合いのけんかをしている。
隣家に休みの間だけやってきた少年(ディル)を誘って、3人で遊んでいる。もう一軒の隣家に謎の住人(ブー)がいるようだが、引きこもりなのか姿を見たことがない。気にかかり恐る恐る探りにいく。夜中に探検に出かけ、ひとの気配を感じ、逃げるときに柵でズボンを引っ掛けて、兄はあわてて脱いだまま走り去る。あとで取りに行くとたたんで置いてあったのだという。
ミステリアスな事件が続き、その謎解きも見せ場になっている。父親が黒人の被告(トム・ロビンソン)を弁護することになり、そのことから白人に白眼視され、嫌がらせを受けるようになる。子どもたちにも、その被害は及んでいる。白人の娘(メイエラ)が顔見知りの黒人から強姦されたという訴えだった。弁護側の主張は、犯行は左手によるものであり、被告の左手は事故で動かすことができないため、犯行は不可能というものだった。暴行は片手でも十分に可能だと、検察側は反論を返している。
法廷では陪審員は白人だけで、黒人の聴衆は二階席に追いやられている。黒人の牧師が傍聴にやってきた兄妹を誘って二階に連れて上がった。兄は固唾を飲んで父親の弁護を見つめている。民主主義のリベラリズムはまだ遠い道のりだった。
弁護士は第一審での勝利は、無理だろうと踏んでいたが、勝機は十分に感じ取っていた。敗れて法廷を去るまで、二階席は立ち上がったまま、弁護士を見送っている。感謝と激励の表明だったが、被告は悲観して護送中に脱走をして、制止を聞かず撃ち殺されてしまう。弁護士は被告を待つ父親に、悲しい報告をしている。それを耳にした妻は泣き崩れた。白人社会からの人種差別は、まだまだ根深いものだった。
娘は顔見知りの黒人にさまざまな頼みごとをしていた。そして黒人に誘惑をしかけて、キスを求めたときに、娘は今まで誰ともキスをした経験がないのだと打ち明けていた。黒人はそれを拒んで去ったが、娘の悔しがる姿を発見した父親(ボブ・ユーエル)が、黒人からの暴行だというストーリーを考えついた。
娘も自身の欲望を正直に語ることはできず、筋書き通りに白人のプライドを守った。弁護士は法廷でこの父親に誘いを仕掛けて、彼が左利きであることを明らかにしていた。娘が正直に話したとすれば、父の怒りは、はじめ娘に向けて爆発したのかもしれない。もちろんこのときは暗示するだけで、父親を名指しにはしていない。
被害者の父親は攻撃的で、繰り返し弁護士を訪れて、白人なのに黒人の弁護をするのかとののしっている。ハロウィンの日に、兄妹が仮装をして夜道を歩いているときに、暴行を加えられもみあっている。兄は負傷するが、妹は頭からすっぽりとハムと書かれたハリボテの仮装をしていて、のぞき窓からぼんやりと事態を見届けていた。傷ついた兄が抱きかかえられて運ばれる姿を目撃し、自分もやっとの思いで、自宅にたどり着き、父親に訴える。医者に電話をして、やがて保安官(テイト)もやってくる。
兄はベッドに寝かされていた。妹は部屋のすみにいる影を、父に紹介した。はじめて見る顔だったが、妹は隣家の引きこもりの青年であることがわかっていた。内気な姿は妹に手を引かれている。保安官の現場検証によると、暴行にあった娘の父親がいて、ナイフが刺さって死んでいた。弁護士は息子が揉み合ったときに刺してしまったのだと判断する。正当防衛が主張できると確信して警察に電話を入れようとしたとき、保安官が制止した。
ナイフの上に倒れ込んだ事故だと言うのだ。潔癖な弁護士は、真相をゆがめる妥協は許さないが、一連の成り行きを理解して、この判断に従うことになる。部屋にいた隣家の青年に近づいて、子どもたちを守ってくれたことに、感謝のことばを述べた。逆恨みの犠牲になった息子を、ナイフで応戦して暴漢の手から守り、自宅にまで運び込んだのだった。引きこもりの青年が、表舞台に引き出されることはなく、妹に手を引かれて自宅へと戻っていった。
眠り続ける兄の枕元には父親が、明け方に目覚めるまで寄り添っていた。アメリカの良心を体現する頼もしい父親像だった。狂犬病騒動のときには、保安官以上に銃の名手であることがわかったが、力に対して力で対抗することはなかった。愚か者の犯罪は、身近にいた弱者が引き受けることになる。弁護士は彼らを守る職業である。アメリカ社会が生み出した正義であるが、悪と結びついて私腹を肥やすことも少なくない。
ここでは冒頭、借金を返せずに農作物を持ってきた、貧者に優しく接する主人公の姿を見せて、娘に自分たちの生活は彼らに比べると、少しはましだと語らせている。控えめで裏方に徹しようとする姿は、子どもたちを自然のうちに感化させる力を宿している。グレゴリー・ペックのさわやかな演技は、ハリウッドスターのけばけばしさはなく、説得力をもってみごとに観客の心にしみいっていた。