星とめぐる美術

2019年09月14日~11月18日

島根県立石見美術館


2019/10/6

 おもしろそうな展覧会名に誘われて訪れた。作品のそれぞれは魅力的であるが、星との結びつきが希薄で、不可解ですらある。星と何とか結びつけようとするのだが、どう見ても企画者の妄想としか思えず、説得力に欠けるものもある。大部分の作品は豊田市美術館からの借用で、豊田市美術館名品展ということになる。何とか体裁が保たれたのは、豊田市美術館の眼識の確かさにある。個人的には豊田市には頻繁に訪れているが、特別展を狙ってのことなので、自前のコレクションのことについてはあまり関心がなかった。

 杉戸洋の大作が二点並んでいる。何の遊星と結び付けられたかは忘れたが、見ごたえのある作品だ。星との結びつきで火星のくくりでは白髪一雄だけが選ばれていたが、これはわかりやすい。炎のように燃えさかる画面の躍動感は、火星と結びつくが、それは日本語の字面だけで、実際には火星は燃えているわけではない。

 最後を締めくくったのは、塩田千春だった。いま森美術館で大規模な個展を開催中なのでタイムリーであり、以前豊田市美術館で見た蜘蛛の糸という企画展を思い出した。確かにこれも蜘蛛の糸をキーワードに作品を収集した奇妙な企画だったが、展示室全体を黒い糸で埋め尽くした塩田千春が、ひときわ輝きを放っていた。

 今回の不可解な展覧会を見ながら、星に導かれて宇宙を移動する作品鑑賞のあり方を、 ひょっとすると今までにない斬新なアイディアではないかと、思い直しはじめる。企画者の名前は表には出てこなかったが、占星術への興味は伝わってくる。もし仮にこの企画の監修者として著名な占い師の名が挙がっていたら、途端に真実味を帯びてきただろう。それは細木数子でも美輪明宏でも平野啓一郎でもいい。ゲストキュレーターとして、作家がキュレーションに加わる企画も増えてきている。ことに占星術というようなくくりに説得力を持たせるためには、必須のアイテムかもしれない。公立美術館は学芸員が比較的自由にアイディアを競うことのできる稀有な場であり、責任感のない企画倒れも多い。最低ペイできれば、次年度の予算はつくだろう。

 ここからは私の妄想だ。この時期、豊田市美術館はクリムト展とあいちトリエンナーレの会場として、ふさがっていて、所蔵品はお蔵入りになっているはずだ。まとめて借りてくるとリーズナブルに展覧会が企画できる。しかし豊田の所蔵品展では魅力に欠ける。そこで一発勝負に出たということではなかったか。確かにこれは企画者にとっての「表現の自由」展ではある。同様に私の発言もまた、この民主主義のルールに基づくものだ。

「星」は益田市の売りの一つだとすれば、それは観光ともタイアップした地域活性化にも貢献している。どこよりも星の見える町だというキャッチフレーズは、即座に占星術と結びつくものだろう。その証拠に私は星に導かれてやってきた。広島、新山口経由で石見美術館にきて、松江に行こうとしている。

 県費を導入しての企画だから、予算要求を考えれば、星を持ち出すのは有効だ。そうした思惑を下敷きに考えると、ロマンチックな展覧会名はかなりのしたたかさを伴って構想されたということになる。この展覧会に興味を持ったのは、案内に同封してあった星ごとの独立したカードだった。広報戦略はページが切り離されたおしゃれな図録も含めて、こまやかな戦術を展開させていた。


by Masaaki KAMBARA