ミイラと神々—エジプトの来世、メソポタミアの現世—

2019年07月13日~09月16日

岡山市立オリエント美術館


2019/9/11

 何となく死のにおいがした。それが現代の防腐剤のにおいなのか、墓にこびりついた腐敗の残存物なのかはわからないが、ずいぶんと以前に見た、古びて牢獄のようだった改修前の大英博物館やルーヴル美術館で嗅いだにおいに近い。ロンドンの地下鉄で、西洋人の体臭とかぶさりあって、西洋美術史の源流のにおいを形成している。エジプトはヨーロッパではないのに、確固としたルーツたる風格が、ロンドンにもパリにも感じ取れる。

 なぜこんなところにエジプトがあるのか不思議だ。いくら古都といえどもエジプトほどではないはずだが、特有のカビくさい文明にどっぷりと浸かりながら、鑑賞を続ける。今回の所蔵先を見るとミホミュージアム古代エジプト美術館など、国内の名が連なるが、体臭だけは日本のものではない。生の温存だが、内実は死の賞賛でもあるミイラの展示は、ことににおいの文化史を理解しないと納得はできない。

 よくこんなものを収集し、展示したものだ。さすがに予定していた「少女の顔」のミイラは、出品中止となったようだが、リアリティのある片手のミイラが、展示されていた。臭い消しの芳香も再現されていたが、それだけでは問題ないが、臭気と混じるととんでもない相乗効果をなすような気もした。匂いを加えるのではなくて、臭いを吸収する発明はまだ先のことだっただろう。

 メソポタミアはエジプトとは地続きなのに、いらだたしげな楔形文字が展開するのが興味深い。ソロバンをはじいているような、鋭い打ち込みが気にかかる。明暗のコントラストを通じて、その切れ味はノコギリの刃を前にした印象に近い。丸みのあるエジプトの象形文字との対比は、彫像の類似をよそに、似て非なるものを教えてくれる。展覧会のタイトルは、エジプトの来世、メソポタミアの現世とある。ともにおどろおどろしいものではあるが、黄金と美に彩られている。人間の果てしない執着と欲望のありかだったのだと思う。


by Masaaki KAMBARA