魅了する 煌めく薩摩

2019.6.1(土)-10.31(木)

横山美術館


2019/6/28

 これでもかこれでもかという執念のコレクター魂を感じさせる、圧倒的な量だ。特別展は薩摩焼で統一されているが、ぎっしりと濃密な味わいを伝える。素人目にはひとつあれば、あとはいくつ集めても同じ薩摩だと思うが、鹿児島の薩摩からはじまって、京薩摩、さらには全国各地の薩摩を収集に加えていく。

 薩摩焼は鈍い光を放つ濁った金地を持っている。どぶろくのような風格をもち、文様の細かな装飾の上に明解な絵柄が載せられている。重厚というよりも、鈍重な感じがする。絵は現代人にとってはそれほど魅力的なものとはいえない。勇ましい武将姿で一目で日本文化の代表例だと知れるものが目立っている。海外に向けての日本の紹介という単純な制作理由は、深い芸術の味わいを目指すというよりも、出来上がった日本のイメージを加速化させるように一人歩きしていく。日本人からすると違和感の残るローカリティが形成されていく。

 陶芸のおもしろさは形と絵の両方にある。しかもニスを塗ったように発色がよく、絵画のように退色を気にすることなく安定している。版画や素描を薄暗い陰気な照明のもとで鑑賞するのに比べると、陶芸は日常の生活空間の中で、健康的なひかりを放っている。これまで陶芸で絵はしっかりと眺めることもなかったが、舞台の名場面集のようであり、大衆性に裏打ちされたステレオタイプである点が、かえってモダニズム絵画にはない新鮮さがうかがえて、興味深いものがあった。

 常設展示はオールドノリタケからスタートするが、超絶技巧に分類できるものも少なくない。宮川香山などは近年脚光を浴びたが、「高浮彫」の見事な突起に圧倒される。ディテールを見ていると実に面白い。鳥の貼り付けが目立つが、何気ない猿と蛸の掛け合いのようすもみられる。さらにそれを引き継いだような隅田焼の井上良齋や石黒香々の意表を突いた造形は、今後広く紹介されて脚光を浴びるものとなるだろう。浅い皿のまわりから中をのぞき込むユーモラスな人物群は人気を呼んだのか、繰り返し作られている。良齋は高浮彫とは別に「釉下彩」による淡い色彩の階調も得意としたようで、多彩な陶芸の幅をもった魅力的な作家だと思った。

 以前に三田で見た「瀬戸ノベルティ」も、横山美術館には数多い。開館にさいして、理事長挨拶として書かれた横山隆一氏の、先駆的な目をもった一貫した収集理念には、感銘を受けた。見ごたえのある充実した展示だった。


by Masaaki KAMBARA