コレクション解体新書Ⅰ フジタが目黒にやって来た ―作品収集のあゆみ―

2022年10月8日(土)~11月20日(日)

目黒区美術館


2022/10/28

 フジタの未知の情報を知る手がかりになるコレクションが、興味を引いた。だれもが鑑賞できる作品だけでなく、プライベートな絵はがきや絵てがみを通して、筆まめな姿が見えてくる。英文で書かれた手紙には、筆跡を通して風貌とは異なった真摯な人生観が読みとめられる。この手の書簡がまだまだ埋蔵されているのではないかという予感がする。

 木下晋の鉛筆画が2点展示されていた。驚異的なのは人の顔や手に刻まれた皺をみる目だろう。顔を大きくクローズアップし、皮膚をこえて、無数の皺が見え出してくる。顕微鏡写真のように抉り出された真実と言っていい。ただ拡大しているだけのことなのにそこから見えてくるものがある。それを「老い」と呼ぶなら、生命体が常にもつ宿命のことなのだろう。さらに拡大すると虚構は再生へと向かい、命のフォルムを刻み出す。このとき老いは死ではなく、命のあかしなのだと気づくのである。

 秋岡芳夫のアートとデザインの対比を通して、見えてくるものがある。一方は工業デザイナーとしての職業人の顔、他方は油彩画による自由な造形で生活者としての側面と言ってもよいか。子どもの情景が広がるファンタジーあふれる広場には、現代が忘れ去ってしまった郷愁をたたえている。この二面性はまたこの美術館の立ち位置とも関係する。画家にはそれぞれ出身地がある。成功して現在住んでいるのが東京である場合は多く、目黒区もそんな著名作家を多くかかえている。出身地にある県立美術館と現住所のある区立美術館が作品獲得にしのぎをけずる。棲み分けがあるとすれば、出身地は初期の、現住地は晩年の作ということになるだろう。


by Masaaki Kambara