高橋秀の世界展

祝 文化功労者 

高橋秀の世界

20201114()1220()

倉敷市立美術館


「イヴの果実」のエスキースという作品があった。あっと驚くイメージの連鎖に唸り声があがってしまった。イヴの果実とは、もちろんリンゴのことだが、軸というか芯にあたる部分がないので、タイトルがなければ気づくことはないだろう。そんなふうに見えるのかという驚きだけなら、作家の個人的なレベルの妄想で終わってしまう。


 しかし、ひょっとするとリンゴをふたつに割った時、生命の神秘を宿したカタチが出現するのではないかという生物学に裏付けられた深層の原理に触れた思いがした。リンゴでなくとも、桃尻女ではないが、どことなくエロチックな連想は、果実を新生児になぞらえてみれば、ゆえなきことではない。エロスの画家などという下世話なネーミングではすまされない宇宙の真理の扉が開かれようとしているのだ。


 それは桃太郎伝説の秘密にまでつながるものかもしれない。昔話は大いなる宇宙論の宝庫なのだから。もちろんエデンの園伝説さえ例外ではない。美術館に常駐される大作「出現」を再度見直しながら、黒いリンゴの誕生に大いなるイメージの連鎖を感じ取った。



by Masaaki Kambara