コレクション展 池田遙邨名作選

2019年07月13日~09月01日

倉敷市立美術館


2019/8/30

 池田遙邨はやはりいい。頼りなげな足元の揺らぎが、とてもいい。不安で孤独な魂が、それでいいのだと肯定されて、生きる希望へとつなげられる。何度も繰り返し見てきた灯台のヴァリエーション。一人ぽつりとたたずんでいるが、頼りなげでまっすぐに立つことはない。京都タワーも灯台のような風格をもつ。よろめきながらも何とか立っているというのがいい。灯台に仮託した想いが伝わってくる。明るく照らす光源であるはずなのに、その自信のなさはどうだろう。波にさらわれて崩れかけた姿は、意志の薄弱さを伝えるが、それでも何とか立っているところに共感を呼ぶ。廃船も同じだ。

 不安定は不安とは違う。温かく受け入れる窓口のことだ。隙のない完ぺきさは、美しいが温かくはない。分け入る隙があるというのは、余裕があるということだ。それは足元のふらつく酔っ払いの姿に似ている。酔っ払いとは行く手に不安のない状態のことだ。戦乱の世に喫茶が流行ったのとは対極に位置する。精神を落ち着けるはずの茶の道はいつも、覚醒をめざしていて、ピリピリとして落ち着かない。岡倉天心が「茶の本」と並んで書いたのが「日本の覚醒」だっだが、酔っ払っていては駄目だという警告だった。しかし私は穏やかで静かな酔っ払いが好きだ。遙邨の絵はそんなメッセージを送ってくれているように思うのである。


by Masaaki KAMBARA