スペインの現代写実絵画

2019年5月17日~09月01日

ホキ美術館


2019/7/20

 スペインから写実絵画がまとまってくるというので、楽しみにして訪れた。日本の写実絵画との違いを確認したかったが、本場の技巧がどこまで超絶的なものかに興味があった。しかし、実際に目の前にした印象は、思い描いていたものとは異なっていた。日本の方が圧倒的に緻密なのだ。

 日本のものと並ぶので、比較は容易だ。大きな違いがあるとすれば、油絵の具に寄せる素材感へのこだわりだろうか。スペインではいつまでも油彩画のもつ絵の具としての特性を捨ててはいない。日本の場合はあっさりと捨ててイメージそのものになりきろうとしているような気がする。

 油彩画の発明以来、600年に及ぶ伝統と、それに対する敬意は、無意識のうちにも西洋人にはこびりついている体臭のようなものだろう。脂ぎったという形容が適切なら、日本の画家たちはあっさりとし、水彩画感覚で絵の具を伸ばしにかかる。その繊細なきめの細かさは、西洋人には真似のできないものだろう。かつて肌の白さを実現した東洋の磁器にリアリティを感じ取った西洋が、何とかしてそれを再現したいと躍起になった。絹のような肌は、楊貴妃だけではない。今日の写実絵画の美人画にまで引き継がれている。それはまたルノワールがねらったものでもあったが、油彩画の伝統下にあって、ルノワールの受け入れる技法ではなかっただろう。

 スペインからの出品59点は、二室にまとめられていたが、なぜか野田弘志の風景画だけが一点、そこにまぎれ込んでいた。これを加えると60点というキレのいい数字になる。以前来た時も「蒼天」と題されたこの風景画はそこにあったので、侵されざる定位置ということなのだろうが、比較という点では興味深かった。それは絵の具の素材感をなくし、カメラの目に徹する、クールジャパンの一翼を担うものに見える。西洋から学ぶことなどもうないのだと言うように、壮大な自然の勇姿がそこには描き出されていた。


by Masaaki KAMBARA