ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展

2017年4月29日-6月25日

Bunkamuraザ・ミュージアム


2017/6/9

 いい写真を撮るのはそんなに難しいことではない。少し視点を変えてやるだけでいいのだということをソールライターは教えてくれる。しかしそんな視点をよく見つけたなという驚きが次に来る。誰も見たことのない場所を求めて探検するのも写真家の信条だが、見慣れた景色を違った目で見直し、再解釈するのも写真がアートになるためには必要な手続きだった。

 その時カメラの目は機械であるがゆえの人知を超えた感性をもっており、それを味方につけない手はない。そこにはじっと腰を落として、ベストショットを待ち受ける目がある。ファインダー内のあるスポットに人が通り過ぎるのを待ち構えることもあるだろう。待ちきれず、モデルを使ってそのスポットに立たせることもあるかもしれない。偶然と作為が微妙に重なる位置で、機械の感性は力を発揮する。

 曇りの日にしか撮影に出かけないという写真家である。光と影に頼らずに創作しようということなのだろう。絵画でさえも光と影に頼ってきた。そこから解放されるには写実を離れる必要があった。そうすることで大いなる自由を獲得した。気ままな光に左右されないでいることが、孤高なアーティストの持ち分となった。画家は早くからそのことに気づいていて、北側を窓にしてアトリエを建てた。

 ソールライターは雨の日が好きだ。だから傘を使った名作が生まれる。そして曇りガラスがそれを加速する。都会の雨はさまざまな想いを携えている。傘は単なる小道具ではない。「シェルブールの雨傘」という映画があった。ソールライターの赤い傘の方が、もちろん古いので、映画の方が写真の世界観をなぞったことになるが、シャンソンの感覚が、ソールライターのニューヨークには近い気がする。ミュージカル「雨に唄えば」ではどうもなさそうだ。


by Masaaki KAMBARA