クリント・イーストウッド製作・監督・主演、アメリカ映画、原題はAbsolute Power、ジーン・ハックマン、エド・ハリス共演、121分。娘と父の不信からはじまるが、逆転して信頼感を得るまでの話である。父親(ルーサー・ホイットニー)は画家を装っているが泥棒、娘(ケイト)は優秀な検察官だった。
はじまりは大邸宅で宝石を盗むところからである。防犯装置を手際よく解除している。真夜中の暗がりのなかを、懐中電灯でレンブラントをはじめとした、壁面の名画を映し出している。部屋に入り引き出しを開くと、古銭のコレクションがあり、宝石や札束も見つかった。袋に詰めて、持ち出そうとしたとき、人声がして男女が入ってきた。女が主人の留守のすきに、男を招き入れたようだった。抱きあうがやがて口論となり、女がナイフを振り上げて、男に傷を負わせたところに、二人の男が入ってきて発砲し、女を撃ち殺してしまった。
泥棒は備え付けてあった椅子にかけて、眺めているしかなかった。遅れて別の女がやってきて、冷静に対処する。泥棒が入って殺害されて逃げたように見せかける。汚れたカーペットを取り除き、血痕を拭き取り、形跡を残さずに去っていく。女が凶器を探すがなくなってしまっていた。窓が開いていて、縄を伝って逃げていく姿を見届けた。ナイフには血痕も指紋もついていた。
泥棒が殺害場面の一部始終を目撃してしまったのである。持ち去られたナイフが明るみに出ると、真相が突き止められる。二人の男は賊を追いかけたが、止めてあった車で逃げてしまった。男のひとりは黒人で、車のナンバーを記憶していて、すぐに見つけ出せるものと思っていた。その後わかったのは盗難車であり、警察から盗み出されたものだった。
次の朝、ジョギングをしている娘に声をかける男がいて、見ると父親だった。母親が死んだあと、疎遠になっていた。娘は父が泥棒であることを、当然嫌っていたが、父親は娘をいつも気にかけている。町を去るので最後に顔を見にきたようだった。娘は直感的に父親が悪事を働いたのだと理解した。富豪の妻が殺害され、宝石類が盗まれたというニュースを知ると、さらに疑惑をいだく。
担当刑事(セス・フランク)もまた、手口を見て、名の知られた犯人を何人か割り出し、地の利からみて、絞り出しをはじめた。前科もあり娘が検察官になっていることも突き止めて、聞き込みにやってくる。不思議なのは玄関から入って、窓から出ていったことだった。隠れたところにある椅子には、かけられていた形跡があった。前歴から判断すると、推定犯人は優れた手口で知られていたが、殺人は犯したことがなかった。
主人公はテレビのニュース映像から、妻を亡くした富豪(ウォルター・サリヴァン)を慰め、その業績を讃える大統領(アラン・リッチモンド)の姿を見てハッとする。殺された女(クリスティ)の情事の相手だったのである。あのとき居合わせた二人の男はシークレットサービスであり、事後処理をした女は大統領補佐官(グロリア)だった。大統領は逃げた男を探すよう命じる。シークレットサービスのひとり(ビル)は懐疑的だったが、黒人のほう(ティム)は、闇に葬るのだと受け止めた。
娘に電話を入れて、父は身の潔白を伝えようとした。約束の場所を娘は刑事に打ち明けると、取り巻いて逮捕の体勢を整えた。一方で大統領側は殺害しようとして銃撃手をビルに配備していた。変装をして娘に近づいて、テーブルについたところを、ライフルで狙いを定めていたが、失敗に終わる。刑事も誰が発砲したのかがわからない。刑事に信頼感を寄せていた娘も、不信を抱きはじめる。
かつて家族が住んでいた家に向かう。娘を保護するように、同行して刑事が付き添っている。家族の写真が飾ってある。娘が大学に入りロースクールに学ぶ姿も、誇らしく写されている。刑事が帰り際に飲み物でもと、娘は誘う。冷蔵庫には何も入っていないはずだが、開くと食料が見つかり、刑事に分け与えている。父が戻っていて入れてくれていたのだった。刑事は娘に好意を寄せているようで、去り難く繰り返して、自分は独身だということを強調していた。
父が姿を現し、娘の前で事件の経緯を説明する。大統領が犯人であることを伝えるが、驚いただけでなく、絶対的な権力を行使して、父が犯人にされることを恐れた。さらには身の危険が及ぶことも懸念された。実際に危険は娘にまで及び、追突され車ごと崖から突き落とされた。一命は取り留めたが、病室を探して、大統領の命を受けた黒人が、医師に変装して殺害にやってくる。ここでも父親が娘を守り、逆に刺客を殺してしまう。
主人公の反撃がはじまっていく。補佐官へはナイフを写した証拠写真を送りつけた。大統領に仕掛けたのは、補佐官への贈り物だった。盗んできたティアラを彼女に、大統領の名でプレゼントした。思ってもいないできごとに補佐官は喜び、公式の集まりで首を飾って出席した。大統領に見せてお礼を言っている。身に覚えはなく、殺した愛人のものであることは、ひと目見てわかった。大勢の客の前では、平静を装っていたが、犯人が罠を仕掛けてきたのだと理解した。
次には悲嘆に暮れる富豪に、運転手になりすまして近づいていく。ことの真相を語り、友人を装った大統領の犯行であることを伝える。信用しないので証拠品として保管していたナイフを手渡すことになる。富豪は自身の老いを語りはじめ、長らく連れ添った前妻に先立たれたあと、この若い妻を愛していたことを告白した。
肉体的に妻を愛する能力はなく、妻の情事を物陰から眺めていたのだとも、正直に語った。盗み見をするための椅子も妻が用意していた。大統領との関係を知ると、深刻に受け止め、自分が大統領にしてやったのにと、富豪は怒りをぶつけた。ナイフを隠し持ちながら、単身で大統領執務室に乗り込んでいく。富豪が怪しまれることはなかった。部屋を開いて大統領は招き入れている。
次の日、大統領が自殺をしたという臨時ニュースが伝えられた。主人公はそれを感慨深げに聞いている。娘が入院している病室に戻ると、事件は終わったのに刑事は、またやってくるのだろうと冷やかしながら、ただひとりの肉親である、娘の肖像画を描いていた。