アルプスが生んだ絵本画家

エルンスト・クライドルフ展  小さないきものたちの美しい詩

2019年07月06日~08月25日

伊丹市立美術館


2019/8/3

 花の精が人となり「花のメルヘン」という絵本を生み出した。それに先立って家族が相次いで亡くなるという悲劇に遭遇している。花は顔を持っているという作家自身の言葉が残されている。そのとき花は死者の生まれ変わりとして見えたに違いなく、それが絵本制作の出発点になった。ユーゲントシュティールの時代、いわゆるアール・ヌーヴォーのもつ植物装飾に同調しながら、クライドルフは、世に知られていった。スイスにあってドイツ文化の誇りは、メルヘンの森のもつ神秘性が、絵本の世界に反映する。

 ヒマワリが顔をもつというイメージの連鎖は、誰もが思い浮かべるものだろう。長い首をもたげているように見えると、植物も動物と大差ないことに気づくし、立ち上がるという点では、動物よりもむしろ人間に近いのではないかと思ってしまう。オランダ肖像画でよく見かける襞襟などは、ヒマワリから顔を出した姿に等しい。満面の笑みがこぼれるように見え、平和の象徴となっている。

 さまざまな花の名が擬人化されている。クライドルフはそれぞれを植物学者のような観察眼でキャラクターに仕上げている。花をじっと見つめている中から、自然と立ち現われてきたイメージなのだろうと思う。そこに亡くなった母の面影を仮想したこともあったに違いない。「夢の庭」ではスイス生まれの画家にふさわしく、エーデルワイスが山の頂に座っている。華麗な高山植物が、よく似合う。クレマチスも頻繁に登場するが、日本では富士山の麓にあるクレマチスの丘を、スイスでは山越えをしてナチスから逃れるサウンド・オブ・ミュージックを連想させる。淡い色彩はさわやかではあるが、忍び寄る戦火の響きを伝えて、もの悲しくもある。かよわい草花が踏みつけられながらもたくましく生きる姿への共鳴が、クライドルフにも、それを見る鑑賞者にも伝わっている。


by Masaaki KAMBARA