スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち

2022年07月16日~09月25日

神戸市立博物館


2022/8/10

 イタリアルネサンスから説き起こされるが、まずはヴェロッキオが目を引く。いい。レオナルドの師匠だが,若きレオナルドの才能を前にして画家をやめてしまう人物である。ここにあるのはレオナルドふうで、ヴェロッキオにしては柔らかみを増している。つまり弟子の影響を受けてしまった頃の作品ということだろう。ルネサンスからバロックへとイギリスが手本とした作品が続く。

 ベラスケスの目玉焼きはながらく見てみたいと思っていた一点だった。はじめて見たのは画集だったが、そのとき感じた奇跡的なテクニックは、どんな筆さばきによっているのかを確かめたかった。エジンバラまで足を運ぶ機会はなく、以前の感慨を忘れていたとき、作品の方が私の前にやってきた。

 〇〇美術館館展は安直な企画であまり好まないが、訪ねたことのない町からの贈りものと考えるとありがたい。日本との交友のあかしでもある。ルーヴル美術館館展はこれからも続くだろうし、エルミタージュ美術館展はしばらくは遠のくだろう。

 たいていは目玉になる油彩画に、版画を加えて一定数をパックにして展覧会は構成される。今回も版画家として知られる名が散見されたが、近づいてみると版画ではなくデッサンだった。インクやチョークが紙の上にのっかっているのである。つまり唯一無二のものであって、エジンバラに出かけなければ見られないものだ。 

 さらに油彩画のように年中壁にかかっているものではないので、頼みこんで出してきてもらわないと見ることはできない。そう考えたときデッサンは急にありがたみを増す。なんだ版画かと素通りしかけたとき、キャプションをみてデッサンだと気づくのだから、大した眼力ではない。でもそれ以降は心の持ちようが変わって、一期一会を楽しむことになる。

 版画の悪口を言っているわけではない。デッサンを版画に至る下図だと考えれば、主役は版画のほうにある。版画ならではの鑑賞法はもちろんある。版画でしか表現できない技法もあり、プレスという紙に加わった圧力だけで感動してしまうこともある。今回はホイッスラーだけが版画(エッチング)だったが,他はすべてデッサンだった。

 レンブラントは名版画家ではあるが、ここでは油彩画とデッサンが並ぶ。カーテン越しにのぞきみる片肌をだした女性で、その視線の先が気になる一点である。これもレンブラント画集でよく登場するものだ。美女ではないがなかなかいい。視線の先にいる人物を想定して画題が詮索されるが、のぞきみる女という設定のほうがずっと謎めいている。宗教的主題がうすれていく時代であり、そこにレンブラントの魅力がある。

 あとにイギリスの画家たちの当時を加えると、ひとつづきの西洋美術史がつづられていく。18世紀のイギリスの時代の幕開けに続いて、ターナーがコンスタブルと並んでいる。大陸からの影響を読み取らせる工夫なのだが、ヴァンダイクがルーベンスよりも大きく扱われているのが興味深い。ルーベンスは小品だが腕のさえが光っている。しかしサイズの比較でいうと、知らなければヴァンダイクのほうが偉大に見える。ルーベンスのもとを離れて、イギリスの宮廷画家となる敬意がここに反映していると解することも可能だ。実際はイギリスにはこのフランドル画家の大作が、ルーベンス以上に豊富にあるというだけのことなのだろう。イギリス美術の展開にターゲットをあてると興味深い。良質のごちそうにありつけたひとときだった。


by Masaaki Kambara