アリス —へんてこりん、へんてこりんな世界—

2022年12月10日~2023年03月05日

あべのハルカス美術館


2023/2/11

 アリスをキーワードにしてワンダーランドに遊ぶ。「不思議の国のアリス」が書かれたのは1860年代のことだが、現代にも生き続けているファンタジーの系譜を追っている。はじめに写真術が発明されて、まだ間もない頃の写真が並ぶ。作者はルイスキャロルのはずだが、聞いたこともない本名での写真が並んでいる。単なる写真にすぎないが、セピア色を通り越して消えかかったイメージのかなたに、ファンタジーが浮かび始めている。写真術の創成期にみるおぼろげなイメージ世界は、かつてジュリア・マーガレット・キャメロン展(1815-79)で感銘を受けたことがあったが、そのとき見た夢みるような少女の幻影は、じつはアリスだったのだと今回気づくことになった。

 もちろん文学なのだが、挿絵にされたジョンテニエルの版画は、あやしげな目つきが印象的で、フジタバルチュスとも同調し、ロリータ願望とも連動してゆくものだろう。アリスの映画も展示されていたが、はじめてみる無声映画は新鮮で、CGを駆使したティムバートンジョニーデップよりもインパクトがあった。オズの魔法使もアリスと結びついていたのだと思った。ジュリーガーランドの目も少女を通り越して疑り深そうな魅惑を放つものだったことを思い出して、この版画と対応していたのだと理解した。

 すべては一元的に結びついて、アリスという語に集約されてしまうような、魔力を秘めている気がしてきた。高山宏さんの「アリス狩り」をはじめ、現代の知の巨人たちがこの少女に惹かれる秘密の一端をのぞけたように思う。古くは稲垣足穂だっていい。滝口修造や澁澤龍彦の書斎に隠された隠微な欲望とも共鳴するものかもしれない。子ども向けのファンタジーとして受け流していた目を覚ませてくれる、おとなの好奇心の本性を今さらながら恥ずかしくも知ることになった。

 あべのハルカスの高層階はくらくらとして息苦しかった。規模を拡大して森美術館(森アーツセンターギャラリーでも開催されたようです)で開催されてもふさわしい企画内容だったように思うが、猥雑な天王寺は、すまし顔の六本木とはちがっていた。コテコテの大阪弁が飛び出す冬の稲妻、アリスの世界だった。天王寺の近隣には新世界というワンダーランドもある。私も大学受験の予備校時代、天王寺に通っていたが、眼下に通天閣を見ることはなかった。帰宅後、ひさしぶりにアリスを聞いた。


by Masaaki Kambara