アーティゾン美術館

開館記念展 見えてくる光景 コレクションの現在地

2020年01月18日~03月31日(予約制)

アーティゾン美術館



 かつては京橋に石橋があった。ブリヂストン美術館は、倉敷の大原美術館などとともに、今では高齢となった美術をめざす若者にとって、長いあいだ聖地として君臨した。フランス絵画史の巨匠の名画を、オリジナル体験によって学ぶことができたからだ。何度も訪れては展示順までも暗記していた。そんなブリヂストン美術館が閉館してからも久しい。その頃にはほとんど足を運ばなくなっていたせいもある。

 久留米の石橋美術館も閉じてしまったので、石橋コレクションはどうなるのだろうと思っていた。そんなとき突然、泰西名画と言う死語が息を吹き返したように、アーティゾンと名前を変えて新築され、立派な美術館となった。関西で言えば中之島の香雪美術館に対応するのだろうが、規模はこちらの方が圧倒的に広いし、ターミナル駅からも近い。ニューヨーク近代美術館と比較する方が適切かもしれない。

 かつて見たブリヂストン美術館の所蔵品との再会という、新鮮味のない訪問だったが、予想は大きく裏切られた。久留米の石橋美術館も含めて、さらには見覚えのない作品が加わり、ごった煮の坩堝となっていた。西洋と日本が違和感なく混じり込む。この混沌が心地よい。青木繁の「海の幸」はどこに位置づければよいか。ルノワールの裸婦の小品があるが、隣には安井曽太郎の大作がいいのではないか。日本の近代絵画をパズルのように西洋の文脈に割り込ませていく作業は、学芸員の醍醐味だっただろうと思う。

 試行錯誤を通じて、日本の立ち位置が決まり、まんざら捨てたものではない自信が生まれる。青木の名品が一箇所にかためられるのではなくて、点在しランドマークになっている。もちろん青木に興味のないものにとっては、別のキーポイントがみつかる。

 かつては場つなぎのように、壁面を埋める絵画で余剰となった空間を補填する脇役に甘んじていた彫刻は、今回はかためられて鑑賞の対象に復帰している。古代エジプトから現代彫刻までを一望できる。そこから暗くつながった別室には、洛中洛外図が一点のみ展示され、異彩を放っている。このタイムスリップした遊泳は、歴史に即したこれまでの不毛を修正して、心地よい空間体験を味わわせてくれた。

 問題はリピーターなのだと思うが、次回予告のチラシを見るとクレー、モネはさることながら、「宇宙の卵、鴻池朋子ちゅうがえり」に魅力を感じた。また来ないといけない。それにしても事前予約は敷居が高い。ぶらっと立ち寄れる開放感が権威主義に陥りがちな画壇制度に支えられた美術界を解放する知恵だとは思うのだが。

By Masaaki Kambara