大竹伸朗 ビル景 1978-2019

2019年07月13日~10月06日

水戸芸術館


2019/7/20

 40年におよぶ制作活動を回顧する大規模な展覧会だが、通奏低音のように高層ビルのたたずむ「ビル景」が繰り返されている。もちろんハイライトとなるのは9.11のニューヨークテロだが、それ以前のビルが、この光景を予言していたわけではないだろう。にもかかわらずビルはどこかに見つかる。それは塔でも煙突でもなくて、無数の窓が描き加えられた箱型のビルなのである。テロ以降ははっきりとツインタワーを意識したものもある。真っ暗の上空を飛行機が飛んでいる。炎に包まれたビルもある。真っ赤に燃え盛る炎の抽象表現もある。

 入り口に置かれた絵が暗示的だ。高層ビルではないが住宅である。家庭の安らぎを意味するのか、落ち着いたたたずまいを示している。にもかかわらず、全体の雰囲気は沈み込んでいて、正面にそびえるのは、電柱のように見えるが十字架であり、さまざまな解釈を可能にする。これが展示される壁の裏側に、抱き合わされてビルの乱立する夜景が掛けられている。ここでも夜の光は燃え盛る火のように見える。メガロポリスの崩壊の予感は、初期の作品からあったようで、苛立たしげな筆跡が、そのメッセージとなっている。

 ダンボールを白く塗り込めて積み重ねられた高層ビルの模型も、もろさの予感を際立たせている。ビルには無数の窓が描き加えられるが、デッサン、エッチング、油彩画、レリーフとさまざまな容態を示し、それぞれで意味のもつニュアンスを異にしている。レリーフで切り抜かれた窓は単一だが、そこからのぞき見える内部空間は多様に変化する。手描きの窓は全てが形を異にしていて、数を増せば増すほど、高層は天に向かって上昇する。ほとんどが描き殴りの抽象画面なのに、ビルだけが生々しく具体的で、立ち上がって見えている。地響きのする不気味な音を響かせる通奏低音に、「ビル景」命名の意図が読み取れたように思った。


by Masaaki KAMBARA