中辻悦子 起・承・転・転

2022年11月01日~2023年01月22日

BBプラザ美術館


2022/12/20

 グラフィックデザイナーとしての仕事が原点としてあったようだ。阪神百貨店のポスターの仕事が際立っているが、時流に乗ったテンポのよさは、持って生まれた構成力の才に支えられて、ここちよいリズムを奏でている。しかしそれはたぶん本来の仕事ではなかったはずで、この人が本領を発揮するのは、子どもが生まれてのち、遊び心に根ざしたオブジェ制作からなのだろうと思う。

 具体美術協会の運動と出会うことで見出したものは大きかったにちがいない。土俗的な不気味な目が登場すると、多様に変容する。はじめは子どものおもちゃのようだったが、人形劇のオブジェとして、絵画平面でも目だけが、輝きを増して抽象作品に残り続ける。この目をもった人物像は、不安に満ちている。見開かれているが空洞で、丸くても穏やかではない。表面が網目模様になった抽象作品にも丸い目がふたつ異様に輝いている。印象的な一点だが、近づいてみると、網目は描かれたものではなくて、白いネットが張られていることに気づく。つまりは目は自由に羽ばたくのではなくて、閉じ込められているのである。和服にも応用されて歌舞伎の情念を加速する。

 目を無くしたひとがたが、その後も継続していくが、それらは並べて展示されると、壁に打ちつけられてだらりとしているように見える。足は時計の振り子を思わせ、その限りではリズミカルに時を刻むのだが、人形とみると磔刑像にさえ見えてくる。人の心にすくうドロドロとした情念を感じさせるのに、さらっとして心地よく仕上げられているので、コミカルでもある。夫であった元永定正が追求したユーモラスなかたちと呼応しているようだ。深いペシミズムが、さらに深まると深淵な笑いが生まれるのだということを教えてくれる。


by Masaaki Kambara