生誕130年記念 小野竹喬のすべて 第一章 竹喬 模索の時代 1889-1938年

2019年07月06日~09月01日

笠岡市立竹喬美術館


2019/7/23

 大規模な集大成で、二期に分けて竹喬のすべてを確認する計画である。大きな流れは写実を身につけ、それを捨てて単純なまでの形にたどり着く歩みだったと思う。前半生では瀬戸内という風土が生んだ自己形成を、日本画での風景描写に託す試行錯誤が語られる。模索の時代とはいえ、風景を通して柔らかな人格が形成される姿が読み取れる。色彩もまた温和で、厳しい自然を愛する鑑賞者には物足りなさを感じるものだ。新潟や富山出身の日本画家の描く風景と比較すると、そのことはよくわかる。

 山と海が同時に見える場所が、好んで選ばれたようだ。島はその典型だろうが、笠岡を含めて、瀬戸内の風土が暗黙のうちに選択肢に加わってくる。私には岡山での学生時代、部活動で笠岡諸島での合宿の思い出がある。地面ばかり眺めながら坂道を登りつめると、急に視野が開け、海が広がるのである。竹喬にも空の位置に海のある風景画がある。山の風景にも遠望する海や、小川のせせらぎが添えられ、潤いを加えている。よく探すと家の脇に溝が描き加えられ、水が暗示されるものもある。黄緑とも言える山の色に、日本画独特の海の色が添えられる。それは山と海の対比であるとともに、色彩のハーモニーでもある。リアリティのある風景は、じょじょに暗示的な色彩論へと移行していく。誰も真似のできない、ある境地に達したことは確かだ。


by Masaaki KAMBARA