レジェンド&バタフライ

監督大友啓史 主演木村拓哉 2023年 2時間48分 

OSシネマズ神戸ハーバーランド


2023/2/22

 久々に映画館で新作映画を見た。信長と濃姫のラブロマンスである。史実にもとづきながら、自由に想像力を羽ばたかせるには、濃姫という謎の多い女性をもってくるのは、心にくい企画といえる。岐阜でおこなわれた信長まつりで、伊藤英明に加えて急遽キムタクが飛び入りで参加をして話題になったので、映画の前宣伝にもなったものだ。抜き打ちは信長の得意芸でもあった。

 濃姫役の綾瀬はるかがかっこいい。立ち回りも鋭敏で信長をねじ伏せてしまっている。崖から落ちかけたのを救う命の恩人でもあった。最後は病いを得て弱々しくなるが、最初の登場は、信長にまさる男まさりで、惚れ惚れする。鷹狩りの腕も信長をうわまわる。桶狭間から本能寺まで、戦乱の大事件にからめて、濃姫の存在を際立たせている。海をはじめてみて感動するのも、崖っぷちから信長を引き上げた直後だった。

 名も知れぬ信長の正室を濃姫と呼んだのは、山しかない美濃の斎藤道三の娘だったからだ。今川の大軍を奇襲で不意打ちをするというのも濃姫のアイディアだった。父の無念を思い、天下を取るという濃姫の野望を、夫が実現することになる。妻の手のひらで夫は遊ばされているともいえるが、やがて信長は暴走し、歯止めが効かなくなる。父への娘の執着を嫉妬して、お前はわしの妻だと叫ぶセリフも印象的だった。はじまりは敵方に送られた政略結婚である。

 比叡山の焼き討ちの場面はすさまじい迫力に満ちていた。僧侶だけでなく、女こどもまで皆殺しにした。濃姫は愛想をつかせて去る決意をする。しかし、離縁をしてまた呼び戻すあたりの信長の心の動きは繊細で、この人に認められている非道なイメージからすると、あまりにも人間的すぎるようだ。妻を看病し、薬草園までつくらせている。

 信長は本能寺では死ななかった。床板がはぐれて地下から抜け出し、濃姫のもとに帰り、ふたりして南蛮船に乗り込んで海外に脱出したという解釈にあっと驚くとともに、心ふるわせた。なのにこれは死に瀕した妄想でしたと言って、また本能寺のシーンに戻り、自害するまでを引きずっていく。この手法は映画でよくやる常套手段であるだけに興醒めもする。夢は夢のまま終わらせたほうがよかったかもしれない。史実はナレーションで語るだけで十分であって、夢こそが映像のもつ本領であるのだから。


by Masaaki Kambara