リヒテンシュタイン侯爵家の至宝

ヨーロッパの宝石箱 リヒテンシュタイン侯爵家の至宝

2020年09月18日~2020年11月29日

広島県立美術館


 小国だが格調高いコレクションに、心地よい味わいを感じる。公式の大広間に置く大作よりもプライベートな私室に何気なく置かれたような風景画や静物画の小品がいい。言い換えればロココ調だということだが、大国ぶらない小国にふさわしい肩の張らないサイズが輝きを放っている。

 肖像画には見知らぬ人との出会いに、心ときめく一瞬がある。金髪の柔らかなきらめきに、少年や少女のみずみずしい感性を感じ取ると、自身の失いかけた命の老化に爽やかな息吹きを与えてくれる。古美術なのに新鮮で清々しい。大画家の名も混じるが、無名画家の様式史は、ルネサンスからロココまでの確立された伝統美を伝えていて、安定感がある。

 絵画を中心に王家の歴史が語られるが、陶芸最後を締めくくっている。かわいいティーカップの品の良さを印象に残しながら、余韻を感じさせるセレクションだったと思う。咲き誇る花瓶の花が、絵画のアイデンティティを主張する。一方プレートやカップは、輝く地肌をきわだたせ、絵画を超えて自己の優位を主張している。

 以前東京で喧騒を避けて素通りした記憶があるが、広島に来てよかったと思う。夕暮れ時に大都市であわただしくそわそわと見る、群衆との同調を避けられただけでも収穫だったように思う。


by Masaaki Kambara