2021年9月21日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

Windows11リリースとMacユーザーの憂鬱

前回(2021/8/2)はWindows365について紹介しましたが、プレビュー版が発表されて試用可能だったWindows11が10月4日に正式にリリースされると発表されました。10月4日以降、対応可能なPCについては前回のWindows10へのアップグレード同様に、必要な仕様を満たしたPCについては順次Windows Update経由でアップグレード用のインストーラーが配信される予定です。

Windows10の時には、発売時期が古いPCは配信されるまでにかなり時間がかかりましたが、2000年代前半に発売されたWindows XPプリインストールモデルでもインストールが可能なものがあるなど幅広く対応されました。しかしWindows11の場合、インストール可能なハードウェアの仕様がかなりハイスペックな水準に設定されたため、Windows10のリリース時に比べると対応可能な製品はかなり限定されることになります。

CPUがIntelの第8世代以降を搭載していてTPM2.0対応という条件に当てはめると、2017年前半頃に発売された製品には仕様を満たさないものがかなりあるはずです。プレビュー版を発表してしばらくしてからCPUの条件を第7世代の一部も対象とするなど若干緩和していましたが、それでも第7世代のリリースが2016年8月で5年前の機種までとなるため、かなりの数のPCはWindows10止まりでアップグレードできないことになりそうです。

Windows11発表に合わせてWindows10のサポートは2025年10月14日までと正式なアナウンスがありました。サポート終了まであと4年あるので、それまでにPCを買い替えてくださいということなのでしょうが、最低でもセキュリティ面での不具合修正は行われるので大慌てで買い替える必要はないにせよ、サポート終了を考慮に入れた運用計画を立てる必要があります。

ここまでは一般的なPC製品についての話でしたが、今回の条件設定ではMacユーザーにも大きな影響が発生しています。Macユーザーの中にはParallels DesktopやVMWare Fusionなどの仮想化ソフトを利用してWindows10の仮想マシンをインストールしてMacOSとWindows10の両方を1台のMacで使用しているユーザーもかなりの数います。これらのユーザーも今回のアップグレード・新規インストールをすんなりと進められるのが現時点では判然としない状態になっています。

Appleは昨年からMacのCPUをインテルからARMアーキテクチャに基づいた自社製M1に移行を始めました。CPUがインテル製の製品については仮想マシンでWindows11を使用することに問題はないようですが、M1 Mac上の仮想マシンでWindowsがどうなっていくのかについては不確定な状態です。まず、M1プロセッサがARMアーキテクチャのため、Windows10もARM版が必要になります。しかしARM版のWindows10はリリースされてはいるものの、一般のユーザーが正規のバージョンを簡単に入手することはできず、比較的容易に入手できるのは開発者向けの体験版のみの状態です。加えてこのARM版はM1をはじめとしたAppleシリコンは対象外の扱いです。


マイクロソフトのInsider Programに登録していればARM版のインストーラーを入手することは可能ですが、M1 Mac上の仮想マシンにインストールできるかどうか・インストールできても正常に動作するかどうかも保証外です。実際に試してすんなりインストールできて動作させられたケースもあれば、インストールはできたものの動作がおかしかったり、インスト―ル自体を失敗するケースもあります。現時点では確実にインストールして動作させられるかどうかはやってみないとわからない状態です。また、仮にWindows10をインストールし動作できたとしても、次にWindows11へのアップグレードもMac自体のTMP2.0対応がWindows11の想定する状態とは異なるため、TPM2.0に非対応と判断されてInsider PreviewのWindows UpdateではWindows11アップグレード対象外と判断されて拒否される場合も、成功する場合もあってギャンブルの状態が続いていて混沌としていました。

仮想化ハイパーバイザーを開発・提供しているParallelsは自社製品の最新版はM1 MacでWindows11までサポートするとアナウンスしてきましたが、マイクロソフトからはつい先日、M1 MacはWindows11の動作対象外との声が聞こえてきました。ParallelsとしてはWindows11動作保証をうたって製品を販売している手前、このままできませんでしたでは返金騒ぎが発生する可能性もあります。アメリカ国内では返金を求める集団訴訟が起きてもおかしくないので、トリッキーな方法も含めてなんらかの対応をしてくれることが期待されていますが、この混乱がうまく収束できなければ一台のMac上でMacOSとWindowsを併用するという利用方法ができなくなってしまう可能性も十分にあります。

かくいう筆者自身も、Parallelsがそのうちなんとかうるだろうという期待感でIntel MacからM1 Macに乗り換えてしまい、四苦八苦してなんとかARM版Windows11が日本語環境で動作するところまでこぎつけていますが、あくまで体験版を動かしている状態で、Intel Macで稼働させていたWindows10のライセンスが引き継がれるのかどうかも不明なため、常用の環境にしてもよいのか判断ができないでいます。Windowsが必要な場合は別に利用しているWindowsマシンにリモートデスクトップで接続してこちらを主に利用しています。

そういった観点では、前回(2021/8/2)紹介したクラウドで提供されるWindows365の仮想マシンも検討する価値があるのかもしれません。しかし、前回のコラムで価格が不明で期待を込めて代替案として紹介しましたが、2vCPUと8GBメモリの仮想マシンでOffice365もセットとはいえ月額5,570円で仮に3年間(36か月)継続すると20万円超えとなり、現物のPCを一台購入するのと大差ない金額になってしまうため、代替案としてはあまり現実的ではなさそうです。WindowsとOfficeをバンドルしてPCを大量に販売しているメーカー製品を購入するより低価格で提供してしまうと、それはそれでお得意様との関係もあり現実的な話ではないのでしょうが悩ましいところです。

2021年9月