2019年2月18日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~Microsoft Officeのパッケージ形式?~

今回は少し趣向を変えてMicrosoft Officeについての最近の経験を。

Microsoftの最近のプロモーションを見ていると、主力商品であるOfficeの販売形式を以前から続けてきた売り切りのパッケージではなく、クラウドを前提としたOffice365でアプリケーションとクラウドサービス込みのライセンス方式を普及させていきたいという意向がひしひしと伝わってきます。たとえばOfficeの製品紹介を行っているOfficeのウェブサイト(https://products.office.com/ja-jp)を開くと真っ先に表示されるのは365の紹介です。パッケージ版についての情報は直観的にアクセスするには難しい場所にひっそりと掲載されていて、できれば売りたくないのだろうなという気持ちが伝わってきます。

Office製品はWindows3.1の時代からかなりの比率がメーカーパソコンの出荷時にプリインストールでバンドルされるものでしたが、一般の箱売りを店頭で購入する価格に比べると相当低価格のディスカウント価格が適用され、パソコンを購入するとタダ同然の費用で販売されてきました。これに対してサブスクリプション制が大前提のOffice365であれば月払いでも年払いでも箱売りのパッケージを購入するより低額ですが、継続して使用するためにはライセンス費用を支払い続ける必要がある仕組みのため、継続率が100%でなくても相当程度の継続が見込め、長期にわたって売上が期待できるのではるかに魅力的です。

パッケージ版の場合、かつては数年おきに新しいバージョンがリリースされ、旧バージョンから安価にアップグレード可能なアップグレード版が提供されていましたが、すべてがアップグレードされるわけではなく、古いバージョンのまま継続して利用される比率も相当なものでした。実際、最近でもOffice2010どころかOffice2007が現役で使用されている現場に遭遇したこともあります。また、Office365が始まったOffice2013ではアップグレード版の提供数量を限定してしまい、365に移行して欲しいという姿勢が伺え、とうとうOffice2016リリースの際には、アップグレード版の提供は行わなくなり、最新バージョンを使いたければ否応なくOffice365を購入せざるを得ないライセンス形態に切り替わっています。

とはいえ、実際の利用形態によってはサブスクリプション制のライセンス形態にはなじまない場合もあるためOffice2016、Office2019と売り切りパッケージ版の提供も行われています。しかし、365であれば機能追加や修正がこまめに行われますが、パッケージ版の場合は、提供されるアップデートは不具合修正が中心であり、365版で提供されている追加機能は基本的には行われないようです。このようにパッケージ版については、出すには出しますが無理に買ってもらわなくてもいいですよ、というあたりが本音ではないでしょうか。また、メーカー製パソコンにOffice製品がプリインストールでバンドルされている販売形態が主流なのは日本国内ぐらいで、ワールドワイドで考えると特殊市場という扱いのようです。

このようにMicrosoft Officeのライセンス形態が移行期にあたるためでしょう、メーカー製パソコンにプリインストールされてくる最近のOffice製品については時期によるようですが、2016パッケージ版と365版というライセンス形態とインストーラー形式で複数のパターンがあります。以前からあるMSI形式のインストーラーを使用しているデスクトップアプリ版に加えて、Windows8やOffice365がリリースされた頃からMicrosoft Store経由でインストールするC2R(Click to Run)形式のストアアプリ版という形態が加わりました。それぞれによってインストールと再インストールの手順と挙動が異なり、サポートの現場でしばしば「どうしたものか...」という経験をしています。

【プリインストールのデスクトップアプリ版】

パッケージ版のソフトウェアで長く採用されてきたMSI形式のインストーラーを使用するデスクトップアプリ版の場合、初回セットアップ時にインストーラーの動作中やアプリケーションの初回起動時に所定のプロダクトキーを入力するだけでインストールが完了します。ところがパソコンにプリインストールされてくるOfficeの場合、以前はプロダクトキーを記載したCD・DVDなどのインストールメディアが添付されていましたが、最近はプロダクトキーのみ提供されていて、アプリケーションの初回起動時に入力するだけの形態となっています。これは使い始めるのには手軽ですが、Windows自体のセットアップや、何らか理由でOfficeを再インストールが必要となるとOfficeセットアップ用のウェブサイトにアクセスしてインストーラーを入手しなければならなくなります。ところが、プロダクトキーはあるので、アクセスしてそのままインストーラーをダウンロードさせてくれれば済む話なのですが、Microsoftアカウントでサインインしないとダウンロードサイトを開くことができない仕組みになっています。つまりプロダクトキーと特定のMicrosoftアカウントの紐づけが必須ということです。

個人で使用する場合はすでにMicrosoftアカウントを保有していればそれを使用すればいいし、なければアカウントを新規に作成して管理すれば済むのですが、Microsoftアカウントには実在するメールアドレスをIDとして登録する必要があります。法人などの組織内で使用する場合は、どのメールアドレスで紐づけるかをあらかじめルールを作って管理しておかないと、後々、プロダクトキーとアカウントの対応が不明になって混乱の元になります。組織内で特定の個人が使用するパソコンにインストールする場合、実際に使用するユーザーのメールアドレスを登録するのが最も分かりやすい方法です。仮にそのユーザーの退職などで登録に使用したメールアドレスが消滅した場合でも、Microsoftアカウントの登録自体は残っているので、プロダクトキーとアカウントと登録したパスワードがきちんと管理してあればダウンロードサイトにアクセス可能です。

ユーザーに管理を任せたまま放置した場合、パスワードが不明になって困ることになります。Microsoftアカウントのサイトでパスワードの再設定機能は用意されていますが、再発行に必要な手順を記載したメールが送付される登録メールアドレスが既に無効になっていると、どうやって受け取るかの算段が必要になります。また、きちんと組織のメールアドレスで登録していればまだマシですが、利用者個人が保有しているプライベートなアドレスで登録してあった場合、さらに追跡が難しくなります。加えて、Officeに含まれるOneDriveの機能を使わない限り、デスクトップアプリ版ではMicrosoftアカウントを登録せずに利用できるので、あらかじめ実ユーザーとプロダクトキー・Microsoftアカウント登録の有無などについて対応状況を取りまとめておかない限り、年単位で時間が経過してからこのような面倒に直面することになります。インストールメディアを同梱しないプリインストール形式が主流になった際にMicrosoftから十分なアナウンスがあれば対応できたと思いますが、積極的にアナウンスが行われた記憶はありません。

【プリインストールのストアアプリ版】

最近はプリインストール方式としてストアアプリ版が主流になっています。ストアアプリ版の場合、再インストールが必要な場合にはプロダクトキーをあらためて入力すればよいので、先に述べたデスクトップアプリ版のような悩ましい事態に陥ることは少ないと思いますが、これはこれでセットアップの際にすんなりといかないことを何度か経験しています。

ストアアプリ版の場合、インストーラーの形式が従来のMSI形式とは異なるC2R形式(Click to Run)という方式が採用されています。この形式はおおざっぱに言えば、インストーラーを走らせるとすぐにアプリケーションが使用可能な状態にセットアップされますが、細かい機能はバックグラウンドで順次インストールされていくという方式です。この形式の場合、再インストールにあたってMicrosoftアカウントを要さずにMicrosot Storeアプリからセットアップ可能で、初回セットアップ時にはプロダクトキーの入力も不要でお手軽になっています。再インストールする際もMicrosoft Storeアプリからインストール可能で、インストール直後の初回起動時にプロダクトキーの入力は必要ですが、Microsoftアカウントでのサインインは必要ありません。ここまではデスクトップアプリ版と比べて大歓迎ですが、初回セットアップですぐに使えるようになってから徐々に機能がインストールされていくという機能なので仕方ないのですが、すべての機能が使用可能になるまでの時間が見通せないという欠点があります。インターネット越しにダウンロードしながらインストールが行われるので通信回線の状態も影響するだろうし、Microsoftの配信サーバー側の稼働状況にも左右されるためか、セットアップを始めてからすべての機能が使用可能になるまで小一時間程度かかってしまうこともあり、セットアップを行っている身としては、自分の作業自体に不手際があったのではないかと不安になることもあります。いつまで経っても不完全のままなのでメーカーサポートに問い合わせの電話をかけて状況を説明していたら、いつのまにか完了していたということもありました。

また、最近遭遇した事例では、パソコンに対してローカル管理者権限を持たない一般ユーザーアカウントでWindowsにログインしてセットアップしていた際に、最初に起動したアプリケーションしか有効にならず、他のアプリケーションは使用不可になってしまったことがありました。例えばExcelを起動してプロダクトキーを入力して使用可能にした後、いつまでたってもWordやPowerPointなどのアプリが起動できない。ならないどころかスタートメニューのアプリケーション一覧からも消えてしまったという問題も発生してしまいました。結局この一般ユーザーアカウントのプロファイルを削除してからローカルの管理者で操作してみたところ、すべての機能が使用可能な状態になりましたが、Officeをバンドルして出荷したパソコンメーカーのサポートに電話で問い合わせても初めての事例だったらしく、インストールを実行したユーザーの権限に起因しているらしいと分かるまでに時間を要してしまいました。

Windowsをセットアップする際に、最初に設定したユーザーアカウントは管理者権限を持ったユーザーなのそのまま作業すればよかったのでしょうが、Active Directoryドメインに参加させてから実際に使用する予定の一般ユーザーでログインし直して作業したことが原因でしょう。インストールメディアからインストーラーを起動させるのであれば管理者権限で作業するのは当たり前だし、仮に一般ユーザーであっても管理者としてインストーラーを実行するなりUACの警告を経由するなりでインストールする手順は身についているつもりですが、プリインストールされているソフトの初回起動でも管理者権限がないとうまくいかないというのは初めての経験でした。

このように、プリインストール版のOfficeについてはライセンス形態がどのようになっているか注意が必要で、しかも既に導入済みのパソコンとOfficeについても遡って調べておいた方がよさそうです。このような問題もOffice365を法人として契約をまとめて移行してしまえば意識しないで済むという暗黙の嫌がらせなのかなと勘ぐってしまいました。

2019年2月