2015年12月24日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~LAN配線徒然①~

今回はLAN配線について思いつくままに記してみます。昔話になりますが、記憶を整理するための徒然話にお付き合い願います。

オフィスにサーバルームを設ければ、ラックなどに配置したサーバなどの機器と、エンドユーザーが実際に操作するパソコンとの間を接続するための設備が必要となり、LANと呼ばれるネットワーク環境を構築することになります。

オフィスにパソコンが普及し始め20年以上前、1980年代末から90年代初頭の頃はインターネットも普及していないし、パソコンすらスタンドアロンで利用するのが当たり前で、データの受け渡しが必要な場合はフロッピーディスクにデータをコピーして手渡しでやり取りする、ネットワークどころかファイルサーバすら「何それ?おいしいの?」な時代です。こういったデータ受け渡し方法を、フロッピーディスクを歩いて持っていくのでスニーカーネットなどと呼んだ人もいました。

私が社会人になった頃は、まだ本体だけで50万円前後は当たり前で、これにディスプレイ、プリンタにワープロその他のソフトウェアと一通り揃えるには100万円位の覚悟が必要な高価なもので、ボーナスを全部つぎ込んでも足りるかどうかという、物好きな人が使う趣味のオモチャ扱いの時代です。

中小クラスの企業がコンピュータを導入する場合は、オフコンと呼ばれるホストコンピュータ(冷蔵庫ぐらいの大きさが当たり前)を電算室に置き、端末と呼ばれた大きめのデスクトップパソコンのような姿をした機器を事務部門のデスクに据え付けてあるのがよく見かける光景でした。私が会社員になって触れた端末機のスペックを振り返ってみると、CPUが8ビットの8086(8MHz)、メモリ1MBでハードディスクはオプションで20MBです。ホストと言ってもCPUは型式不明ですが16ビット、メモリが最大3MB、ハードディスクが最大で450MBといった時代で、下手をすると当時のミドルクラスのパソコンよりもスペックが劣るもので、主に売上や会計など金銭に関わる様々な処理を行っていました。書類は手書きが当たり前、今ならExcelで行う表計算は手書きで表のマスを埋めて電卓で集計計算をする時代でした。

この時代、ホストと端末を接続するために利用されていたケーブルは、イーサネットの規格でいえば10BASE5に相当するものが主流だったと記憶しています。この規格は直径1センチ近い太さの同軸ケーブルを使用して、下図に描かれているように信号を分岐させるためにはケーブルの皮膜から中心に向かって針を突き刺し、この針から信号を取り出すという、今から考えたら乱暴としか言いようのない豪快な仕組みを採用していました。

http://nw.tsuda.ac.jp/lec/ether2/より転載)

機器の設置場所によってはこの太いケーブルが床の上に剥き出して貼っている場所もあり、隔世の感があります。

パソコンの普及に伴って現在でも使われているLANケーブルと見かけは変わらないツイストペアケーブルを採用した10BASE-Tケーブルによるイーサネットを使用したLANの導入が始まります。これがWindows95の発売以降、21世紀初頭まで数年間の状況です。

研究機関やコンピュータと密接な業界ではもとからの蓄積があるため、高レベルのネットワーク配線が行われたところは当然ありますが、世の中の流れに乗ってとにかくインターネット、とにかくLANと飛びついた一般的な現場では、今から見ると「大丈夫かこれ?」といった乱暴な導入が当たり前です。とにかくLANケーブルを買ってきて接続してみましたといった状況ですから、構築した当事者ですら時間が経つとどうなっているのかよく分からないカオスな状態となります。

特に、当時のオフィス用のビルではLAN配線が居室内に張り巡らされることを想定していないため、床下に配線用の空間を取っていないのが当然の設計です。せいぜい床コンセントを設置するための配線と電話配線を考慮した配管が埋め込んである程度が一般的だったため、机の下に隠すことができない床を這うケーブルを隠すモールがフロアのあちこちを這い回っていました。

10BASE-5の太いケーブルでも起こりがちだったのですが、平坦なはずの床の上にモールという薄いとはいえ突起物が置いてあるわけで、慣れるにしたがってかえって意識から外れてしまい、うっかりこれに躓いて転ぶといった危険もあり、できれば採用したくない方法です。デザインセンスがあるオフィスでは、天井にケーブルラックを吊り下げてLANケーブルをここで取り回し、必要なところに上から引き降ろすという方法も見られました。

この頃はオフィスの模様替えや移転の際、LANケーブルの大量張り替えを行う場合に、LANケーブルをロールで購入して必要な長さに切断し、RJ45のコネクタを両端に取り付ける加工を自前の作業で行うことも珍しくありませんでした。100BASE-T用のカテゴリー5までは慣れた人なら素人の工作精度でも性能低下を起こさずに自作できたのですが、これ以上の規格となるとそれなりの訓練を積まずにきちんと性能を出すことが難しくなったため、専門の業者さんに依頼するか、あるいは必要な長さと本数の既製品を購入するようになりました。

1990年代に入る頃から、インテリジェントビルと称するビルが一般的になり始めます。ネットワーク対応という面では、それまで当たり前だった床下配管ではなく、床下全体に空間を設けて電気配線やネットワーク配線、電話線などを自由に敷設可能なOAフロアと呼ばれる方式を採用しています。しかし、これはあくまでも新築ビルのお話で、以前から建っているビルがこのような対応をとる場合、テナントが入れ替わる隙間に既存床の上にもう一枚床を増設して上げ床にする改装を施すようになります。築30年程度より古いビルで、なんとなく天井が低いと感じるビルはこのような改装が施されているものだと思います。

最近では無線LANも高速化が進んだため、面倒でも費用がかかる配線工事の手間がかからない全面無線化という事例も見かけるようになりましたが、居室空間全体に規格通りの通信速度を安定して提供できるかどうかはまだ難しいものがあります。高速通信を確実に提供するためには、物理配線は欠かせないものです。

次回は実際の配線計画などについて、もっと具体的に考えてみようと思います。

2015年12月

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※ 関連コラム 【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】 「LAN配線徒然②)」 (2016年2月8日)