2014年10月14日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~超特急の事例-例外中の例外なので参考にしてはいけません~

前回はオフィスを引っ越す際には、遅くとも3か月前には相談していただけたらという話題でした。余談めいたお話ですが、無茶な事例を紹介します。ただし誤解して欲しくないのですが、これは裏ワザの紹介ではありません。こんな無茶なことでもない限り、それなりの時間を見込まないとうまくいかないということの実例です。

8年ほど前ですが、都心のとある小規模なお客様からお呼びがかかってお邪魔すると、開口一番に「実は来月引越すのでよろしくね!」とのご依頼をいただいたことがあります。直接の担当ではなかったため詳しい経緯は把握していませんが、このオフィスを開設する時にもかなり急な話で開設が決まり、光ファイバの手配がどうにも間に合わず、大急ぎでADSLを手配し、光の開通まで1か月以上しのいでいただいたお客様でした。私自身はADSL開通といっしょに届いたモデムの設定から携わりました。フレッツという同じ名前のサービスでもADSLと光ファイバでは足回りが変更になるとプロバイダさんが割り当てる固定IPアドレスは変更になります。そのため光が開通した際にもルータの設定変更があらためて必要になりました。

新しいところとの契約をすませて退去の通知も終わっているため、もう後には引けないという状況だということなので、突き進むしかありません。現オフィス開設時も似たようなドタバタだったので、「ご要望時期に間に合うよう頑張りますけど、すんなりと行くかどうか今のところは断言できません」とまずは予防線を張らせていただいてから段取りのスタートです。

インターネット接続には、足回りがNTT東日本のBフレッツ、ISPは某社の固定IP8個のサービスを利用していました。Bフレッツはその某社さんが手配するタイプの契約です。(あくまで某社さんです ^ ^: )

まずは某社さんに移転の連絡を行いましたが、当然ながら開口一番、「来月ではとても無理です!」との回答です。前回書いたように光ファイバを開通させるためにはそれなりの手順があって、仮に1か月で可能だったとしても、それは運が良いケースです。これは今でも変わりません。某社にしてみれば自社内のサービスで完結しているならともかく、競合相手でもあるNTT東日本さんに依頼して動いてもらわなければ、サービスの前提になる足回りが整わないのでなおさらです。

こちらとしては無茶な話であることは重々承知の上で「そこをなんとか m0m 」と押してみました。窓口のかたも「とりあえず内部で相談してみます」とは言うものの簡単にOKが出るわけもありません。できるかできないかのやりとりだけで1週間近くを費やしてしまいました。結果的にダメだったとしてもインターネットへの常時接続は確保しなければならないので、この押し引きと並行で押さえとしてADSLの手続きもお願いしてありましたが、こちらのほうは現地調査もなしで間に合いますとの回答です。

お客様には逐次報告しながらやり取りを続け、やっぱりどうにもなりませんという回答に落ち着き、つなぎのADSLについて段取りの検討を始めました。海外と拠点間VPNを結んでいるので、固定アドレスの通知が必要です。ADSL接続には今まで使っていたグローバルアドレスは使えません。VPN設定を対向側でもADSL用の新しい値に変更する必要があります。このあたりの段取りを具体的に検討し始めた矢先ですが、意外などんでん返しが起きました。

当のお客様の口から「光ファイバ開通のOKが出た」との言葉が飛び出しました。インターネットのイの字も技術的な話もわからないはずのかたからこんな通告ですから、びっくりして事情を聴いてみると、なんとその某社の相当ハイレベルなところに対して直接電話をかけてねじ込んだというのです。実はこのお客様のお仕事というのが外資系ファンドの関係でした。日本の通信事業会社は資本構成を見てみるとどの会社も外資がらみの金融関係が大株主に名前を連ねています。持株比率が1%もあれば大株主として名前が出てきますから、そこまで保有していなくても、いくらかの持ち分があれば無碍にはできないのでしょうね。(いくらかと言っても我々庶民とは桁数が段違いですが)

具体的なことはわかりませんが、どうやら資本政策を担当する部門の上層部に直接連絡を入れたようでした。この結果、今までの押し問答はいったいなんだったのかというほどあっけなく開通が決まってしまいました。「どうやら上のほうでよろしくやってもらえたようだけど、連絡は行ってますか?」と某社の窓口に電話をかけたら、最初は「え、なんのことですか?」といった反応で、事情を話したら大慌てで調べてくれました。本当にOKなことを確認してもらえた時の、担当さんの脱力仕切った受け答えの雰囲気が手に取るようでしたが、こちらにしても同様です。えらく気が抜けてしまいました。普段ならそれなりの時間がかかる現地調査の段取りも、通常ではあり得ない超特急で手配されてしまいました。

転居先のビル自体はかなり新しいビルで、Bフレッツ用にファイバがすでに多芯の引き込み済みで余裕があったため、ビルの外から引き込む必要もありませんでした。固定IPの契約を移転する場合でも、移転場所によってはアドレスを変更しなければならないこともありますが、近距離の移転だったため、アドレスの変更も必要なしでした。結果としてルータの物理的な移動と再接続後の動作確認だけであっけなく移転できましたが、運がよかったとしか言いようがありません。

通信サービス自体は某社提供ですが、足回りはBフレッツなのでこれは当然NTT東日本のサービスです。ということは某社が大慌てしただけではなく、NTT東日本にも相当な無茶をお願いしなければこの日程はこなせなかったはずです。某社からどんな依頼をしたんでしょうね。当然ノーマルな手順では埒が開かないはずなので、双方の上のほうでごにょごにょあったのだと思います。

2014年10月