2019年12月23日

【システム企画~情報活用力を上げる仕組み作り】

~PMBOKに記される対立状況への対応方法(2)~

前回(2019/11/5)に続きPMBOKに紹介されている対立状況への対応方法について考えていきます。

compromise/reconcile(妥協・和睦)

対立する2つの陣営が、それぞれの意見を部分的に受け入れて対立の継続・激化を避ける方法で、bargaining(取引、条件交渉)とも言われます。「鎮静・適応」は対立構造を明らかにしない方法でしたが、「妥協・和睦」では対立する点を明確にしたうえで、受入れされるところ、受け入れられるところを合意します。「勝者なき解決(loose-loose solution)」と言われることもあり、双方にとって最善の結果が得られるものではありませんが、「協力・問題解決」に向かいそうもなく、「強制」も使えない、あるいは使うリスクが大きすぎる際、また、対立したまま時間の経過を許すことができない場合には有効であると考えます。

システム開発においては、以下のようなものが例として挙げられます。

〇仕様変更を受け入れる代わりに仕様書の納品を後回しにする

〇納期遅れは認めるが、準委任契約であっても遅延分は追加料金の発生はないものとする

歴史的には、羽柴秀吉の備中攻めから中国大返しにあてはまるところがあると考えます。秀吉は備中高松城に水攻めをしかけ、五国割譲と城主の切腹(城兵の安全は保障なし)を条件に毛利方に降伏を迫っていましたが、城主以下籠城者の救命を望む毛利方との交渉はすぐにはまとまりませんでした。やがて織田信長が明智光秀に討たれたとの報に接した秀吉は、光秀討伐のため一刻も早く京に引き返すこととなり、三国割譲と城主の切腹(籠城者は助命して労う)に条件を引き下げました。信長落命を知らなかった毛利にとって、これは受け入れ可能な条件であり、和睦が成立しました。

最近では202年東京オリンピックのマラソン(札幌開催)の周回コースは妥協の物産といえそうです。後半のコースは大会組織員会と世界陸連がそれぞれの理由をもって、前者が約20kmを1周、後者が約7kmを3周する案を主張しましたが、結果は両者の間をとった形の約10kmを2周となりました。

force/dire(強制・統制)

「妥協・統制」は時間の経過が許されないときに有効であるとしましたが、PMBOK原文に「強制は妥協や交渉に比べて時間がかからない」とあるように、さらに嵩じて時間が何をおいても重要な場合に用いられるものであると考えます。PMBOKにある対立状況への他のアプローチが「ゼロサム」を回避するように働くのに対し、これは「権力や支配力等、地位の力を行使して、一方が他方を圧倒する形で一方の意見を押し付ける。他方に犠牲を強いる」ものです。ビジネス上のプロジェクトではそのようなことは考えられませんが、騒擾や戦争における警察力や軍事力の発動も、一つの形であると考えます。

東京オリンピックのマラソン開催地の東京から札幌への変更に際して、国際オリンピック委員会(IOC)と東京都の間で意見が衝突し、交渉が難航するかに見えましたが、レース当日まで約9ヵ月しかない状況にあって決定を急ぐ「最終決定権を持つIOC」から「部分的権限を付与された東京都」に対して、「決定事項(a settled decision)」として伝えられました。

2019年12月

【関連コラム】PMBOKに紹介される対立状況への対応方法(1)(2019/11/5)