2020年9月28日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません

~Wi-Fiが便利なのは確かなんだが…~


かつてはオフィスにネットワーク環境を整備する際、座席などのレイアウトとLANケーブルの敷設のレイアウトによって調達するLANケーブルの量も変わるし敷設工事の内容も変わってくるので、プランニングに結構な時間をかけていました。しかし、オフィスに設置するパソコンとしてノートパソコンが主体になり、スマートフォンやタブレット端末が当たり前に利用されるようになってからは、LANケーブルのある場所でしかネットワークに接続できない有線接続よりも無線LANを提供して、利用場所に縛られないネットワーク環境を構築することが主流になってきました。

LANケーブルが必須と思われがちなデスクトップパソコンも無線接続を採用する事例も増えています。USB接続のWi-Fiアダプタを追加するだけでなく、マザーボードに搭載するチップセットにWi-Fi機能が統合されているものも最近は多くなっています。メーカーによっては、発注の際にWi-Fi非搭載に指定しておかないと無線LANが標準搭載されていることもあるため、デスクトップパソコンだからといって無条件にLANケーブルが必要というわけでもなくなっています。

しかし、無線にしてしまえば面倒なLANケーブルの取りまわしがなくなって管理が楽になるというものでもありません。有線接続の場合は、ケーブルの受け口となるネットワークスイッチなどの機器は1台あたりに搭載できるポート数に限りがあるのと同様、Wi-Fiアクセスポイントにもそれぞれ1台あたりに同時接続可能な端末数に上限があります。したがって、オフィス内で使用される端末の台数に応じてアクセスポイントの設置台数を考えておかないと、いざ利用開始になった段階で、機能的には問題がない端末が繋がらない・繋がっても不安定で頻繁に接続が切れてしまうなどのトラブルに見舞われます。

以前にも書いたことがありますが、パソコン設置台数だけで必要なアクセスポイントの数と能力を見積もるのではなく、利用者全員がスマートフォンやタブレットを持っていることを前提にしておかないと、クライアント数の想定が実際に存在するクライアント数の半分にもならないことがあり得ます。こういったことを踏まえてプランを作成すれば最低限の環境は整えられると思います。

このようにして複数のアクセスポイントで構築したWi-Fi環境の場合、それぞれのアクセスポイントを個別のSSIDでサービスを提供するのではなく、同一のSSIDでローミングさせることが多いと思います。個別のSSIDではクライアント側が「今ここにいるからあれに繋ぐ」と自分がいる場所と接続先を意識して利用しないと、移動した時に電波が弱いアクセスポイントに繋がったままになって通信が不安定になることもあります。同一SSIDでローミングにしてあれば、自動的に適切なアクセスポイントとの通信に切り替わって快適に利用できるはずです。ところが、これらの設定が仕様通りになっていてもローミングで切り替わる側のアクセスポイントが処理能力いっぱいのクライアントと既に通信を行っていたりすると、目の前のアクセスポイントには切り替わらず、遠くのアクセスポイントと微弱な電波での通信が維持されてしまう、天井や床越しに漏れている上下のフロアにあるアクセスポイントからの電波をつかんでしまうなど、期待通りの通信ができないトラブル事例に遭遇することもあります。

ハイエンド製品であればアクセスポイントの状態を統合管理する機能が用意されていて、リアルタイムで各アクセスポイントの稼働状況や接続先クライアントの情報をモニターすることで問題点を把握して対応策を考える材料にすることもできますが、そこまで手厚く管理しているところは多くないようで、アクセスポイントを増設するくらいしか即効性が期待できる対応はないようです。物理的なLANケーブルで構築されていればボトルネックになりそうな部分をイメージするのはたやすいのに比べ、無線の場合、目に見えない電波で繋がっていることに加え、同一のSSIDではトラブルが発生した時点で具体的にどの機能との接続で不調なのかも見えないため悩ましい問題です。

ここからは妄想モードですが、いっそのことパソコンやスマートフォン・タブレットその他通信機能が必要な端末に対して、これから携帯電話で普及が期待される5Gネットワーク対応のSIMMを漏れなく装備して、LANに相当するネットワークはすべてVPN経由で仮想的な閉じたネットワークを構成するという方法も将来的には出てくるのではないでしょうか。もちろん、現在喧伝している最大10Gbpsといった速度については、少数の端末しかない状況での理論値ですから期待しませんが、それでも実効で4Gを超えるギガビットクラスの速度が出れば一般的なLANに遜色ない通信速度で利用可能です。とんでもない端末数をサポートしなければならなくなるので、バックボーンを担う通信キャリアにかかる負担は現在の4Gネットワークに比べると段違いになるでしょう。しかし、こういった構成を低コストで提供可能になればLAN構築の方法論が劇的に変わるかもしれません。

2020年9月