2014年9月8日<後編>

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~光ファイバの移転は結構時間がかかります~ (後編)

>> 工事内容はケースバイケース

現地調査で設備状況を見てから必要な工事の内容が決まるわけですが、この段階で引き込み状況の確認、引き込み済みであれば建物内で必要な工事の程度などを見積もります。最近建ったばかりの大きめのオフィスビルであれば、光ファイバに関するニーズが分かっているので、余裕をもって設備が用意されていることが多いようですが、NTTが爆発的な普及を想定していなかったのと同様、建築サイドでもビルの中に光ファイバが張り巡らされる将来をあたりまえに想像していた人はそう多くありません。

電気・ガス・水道機・電話線などをビルの中に通すことは当然のことですが、光ファイバは未来の技術といったイメージの人が多かったようです。構造によってはビルの既設配管をそのままでは通すことができないこともあり得ますが、契約が済んでしまった後で判明すると配管工事の手配まで考えなければならなくなるのであまり古いビルはお勧めしません。

すでに多芯ファイバが引き込み済みで芯数にまだ余裕があれば、機械室からフロアまでケーブルを引き回す程度で済むため話が早くいですが、上記のように古めのビルでは引込実績があってもすでに利用中のテナント以外に対応する余力があるかどうかは実際に調査してみないとわかりません。

特に問題がない場合は実際の工事をいつ行うかの相談で済みますから調査完了から長くても半月程度で工事できると思いますが、これでもすでに申し込みから1か月以上たってしまっています。ビル内で敷設工事が必要であれば、構造的な条件はもちろんですが、他のテナントの事情によっては平日や日中はダメなど工事日程の制約がかかることもあります。ここでまた交渉が加われば、もっと期間を見なければなりません。ビルの構造やテナントの件についてはこれだけで長くなりそうなので、別記事としてまとめようと思います。

>> 道路工事まで必要なこともある

既存設備に余力がなければビルの外から追加で引き込む必要が出てきます。こうなると電話屋さんとビルの事情だけでは工期が決められません。道路の地下に敷設されている共同溝や電柱から分岐して引き込むことになりますが、そのためには道路の使用許可・占有許可までが必要になってきます。よく街角で赤いロードコーンや黄色いバリケードを並べて警備員さんが立っている光景を見かけますが、電話工事と表記してあれば多くがこの手の工事です。

建物外部の道路で工事を行うためには、現場となる道路の管理者(国・自治体)や管轄の警察署に申請して許可を受けなければなりません。当然申請は電話屋さんが行いますが、早くても2~3週間は待たされるし、場所によってはもっとかかる場合もあります。こうなると申し込みから開通まで1か月や2か月かかっても不思議ではありません。

これは極端な事例で余談となりますが、ダイアルアップIPが全盛期の20世紀末、東京隣接県のある会社で局舎から数キロ離れた場所にT1を引きたいと相談した時は、NTTさんから「まったくの新規敷設になるので局舎からここまで道路を数キロ掘り返す必要があります。工事期間中に経路上の道路をずっと通行止めにはできないので、少しずつ工事を進めることになり、早くても1年半ぐらいはかかりますね。」と言われたこともありました。

都市部であればこの事例のような大掛かりになることはもう起こらないだろうと思いますが、建物の外部での作業が加わると、申し込みから開通までに要する期間は役所への申請結果次第となり、申し込んだ時点では見込が立てられません。

このように、光ファイバによるインターネット接続の確実な引越しのためには様々な条件がかかわっており、3か月余裕があってもぎりぎりになることは簡単に起こり得ます。ただしここで書いてきたことは、現行の設備を右から左に動かすだけについてでこうなります。

実際にはIT以外にもさまざまな点について考えなければいけないのは当然ですし、あわせて動いているシステムや機器をアップグレードしたいなどの条件が加われば、製品調達に関する所要期間も考慮に加えなければならないのは無論です。製品によっては、受注生産や輸入が必要なものもあり、3ヶ月くらい納期が必要なものもあります。相談をいただく身としては、やはり半年くらい前には声をかけていただきたいものです。

2014年9月

前編はこちら >>

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※ 関連コラム 【ITのお引っ越し~持っていけば動くわけではありません】 「機器を移動させるだけではいけない理由」 (2014年7月28日)