2015年7月6日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~サーバルームの環境整備 (5) 消防対策~

今回はサーバルームの消防設備について考えてみます。

サーバルームを独立した区画として確保する場合、消防法や建築基準法も考慮する必要があります。一般的なオフィスビルであれば、建物として基本的な機能や設備は予め整えられているのが当然で、一般的な居室空間として利用するのであれば細かいことを考える必要はまずないと思います。一般的な居室空間であれば天井にスプリンクラーが設置されており、消化器が適正な数用意されているでしょう。

しかし、サーバルームとなるとサーバやネットワーク機器などの電気機器が何台も設置されるため通常の居室と同じように扱うわけにはいきません。電源ユニットや配線などの故障が起きれば、発煙にはじまり火を出すこともあり得るのが電気機器です。そうはいってもこれらの機器の材料から見て激しく炎を噴き上げるような可燃物はほとんど使用されていないので、サーバやネットワーク機器だけであればいいのですが、これらの機器を常時稼働させるための設備として欠かせないのが無停電電源装置(UPS)です。

このUPSが曲者で、要するに蓄電池ですが、この中身が問題です。ノートパソコンのバッテリに発火の危険があるとしてリコールがかかったというニュースが話題になり、実際にリコールに応じたことがある人もいるかもしれませんが、このように蓄電池には発火の危険がある化学物質(ニッケル・カドミウム、リチウムイオン、ニッケル・水素など)が充填されています。これらの化学物質は取り扱いを間違えると高温となり発火の危険がある物質です。そのため火災予防条例準則第11条、13条でUPSを設置する規模に応じた防火対策が求められています。とはいえ、この条例は汎用機やオフコンなどちょっとしたキャビネットがいくつも並ぶようなサイズで構成される時代に作られた基準なので、容量の合計が4,800Ah・セル以上とかなり大規模なもので、UPSも相応の規模になり、最近のPCサーバを複数組み合わせた構成を想定したものではありません。

今時の一般的なサーバの場合、個々のサーバ自体が大きいものでも19インチラックに収まる4U程度、この規模に対応したUPSも2U程度で数10A程度に収まるので、ラックが数本程度であればこの規制の対象になることはないでしょう。

もちろんこのユニットが何組もラックに収まり、ラックが複数設置されれば総量としてはかなりのものとなり、条例の対象になる場合もあるため事前の確認は必須です。オフィス入居の際には必ず消防検査が入るため、この点を想定しないでいると、オフィスのオープン直前でサーバルームが使用禁止になりかねません。

今までオフィス移転で一緒に仕事をした設計事務所さんとの打ち合わせの過程で、この条例にひっかかるかどうかを深く検討した経験は少ないので、中小規模であれば対象になることは少ないと思います。

そうはいっても、独立した区画を設ける以上、相応の消防設備は必須です。何も準備がなければ、やはり使用禁止を申し渡されてしまいます。冒頭に書いたように通常の空間であればスプリンクラーが用意されているので、ラックの上から放水すれば確かに消火は万全です。しかし、水をかぶった機器類はほぼすべて使い物にならなくなるため、サーバルームと離れた場所にリアルタイムで完全なバックアップを保持していない限り、速やかな復旧を行うためには水を使わない別の方法を用意することになります。

水を使わない消火設備には各種ありますが、ことが済んだあとの始末を考えると泡系も使ににくい素材なので、サーバルームで一般的なのはガス消化設備でしょう。かつてはハロゲン系が一般的でしたが、オゾン層破壊の問題が出てきたため最近ではハロン系や窒素、その他新素材が採用されるようになっています。

ただしこれらガス系の場合、設備が作動した後そのままでは人が立ち入ることができない状態(窒息します)になるため排気設備も合わせて設ける必要があり、消化設備の費用に加えて結構な費用がかかります。

どれだけの設備を用意するかはお財布との相談になりますが、空調に加えて消防でもそれなりの費用がかかることを頭に入れておく必要があります。

2015年7月